「もっと信じてやれ。彼女は強い」

▼「沈黙は金」という格言があります。
 ですが「腹を割って話す」という言い回しもあります。
 やはりその人の胸のうちがわかった方が、好感度の高まることは多いですよね。
 最近、ネットを巡っているとツンデレという言葉を見掛けることが多いのですが(リアル世界では一度も聞いたためしがありません/笑)、似たような心理作用なのかも知れません。
 「何を考えているかわからない冷たそうな人」と思っていた人物が、実は「熱くてハートフルな性格だった」と知った時のギャップは感動的ですらあります。
 もちろん内面を知れば知るほど、逆に「こんな人とは思わなかった…」という幻滅の方向にむかう場合もあるのですが……人間の好悪の感情とは難しいものです。
 ともあれ、レイのことです。
 死期を悟ったからでしょうか。今まで無口だった彼は色々と胸の裡を明かすようになりました。
 先週のシンに向けた熱い語りも印象的でしたが、今回のこの言葉も意外でした。

レイ 「ミネルバも奮戦したようだが、ステーション1は落とされた。今はこちらへ向かっているアークエンジェルらを追撃している。……心配しなくてもルナマリアは無事だ」
シン 「え」
レイ 「(優しく微笑しながら)もっと信じてやれ。彼女は強い」
シン 「……(俯く)」

 「シンとルナマリアの会話している姿を遠くから見ているレイ」という構図が今まで何度も登場しました。
 私はあれらの場面のレイを、「ルナマリアに妙なことを吹き込まれてシンが戦意を鈍らせないか監視している」のだと考えていました。実際、シンが戦うことに迷いを見せたなら、すかさずレイは「お前は正しい。お前が戦っているのは間違いではない」と囁きにきましたしね。
 ですが、彼がルナマリアとシンが一緒にいる様子を見ていたのは、そういう理由からではなかったようです。
 友人たちの幼い恋愛を兄のような視点で優しく見守っていたのか。
 あるいは、長くもない一生を閉じようとしている今、自分がついに経験すること無く終わった青春の一幕をかれらの上に重ねて見ていたのか。
 本当の胸の裡は分かりません。
 ですが、いずれにせよレイは「監視者」のような悪意のこもった眼差しでシンとルナマリアを見ていたのではないと、今は考えています。
 ……レイが後押ししているのだから、ルナマリアとシンは幸せにならないといけないなー、とは思うのですが、どうなるのでしょうね、最終回は。

[17-09-24]

「どのラクスさまが本物か、なぜわかんないの!?」

ルナマリア (これでいいのよね? これでいいのよね? シン)
メイリン 「お姉ちゃん、やめて!」
ルナマリア 「! メイリン!? エターナルに?」
メイリン 「何で戦うの? 何で戦うのよ! どのラクスさまが本物か、なぜわかんないの!?」

▼メイリンの台詞に違和感を覚えた視聴者も多いと思います。
 今は「デュランダルの提示したデスティニープランを受け入れるかどうか」が戦いの焦点となっているのであって、「ラクスが本物かどうか」というのは既に意味を失った論点でしかありません。ラクスの真贋など今更どうでもよいことです。
 ですが、この妹の叫びにルナマリアも動揺していました。これはどういうことなのでしょう。
 たとえばクラインの家系がプラント社会における王家のような存在であり、ルナマリアとメイリンのホーク家がクライン家に代々仕える武門の家柄であるならば、「本物のラクスに叛旗を翻すこと」は決して許されない禁忌であり、ルナマリアがメイリンの言葉に動揺したことにも少しは納得できるかも知れません。
 また、それならば、ルナマリアが(これでいいのよね、シン)と心の中でシンに同意を求めたことも多少は頷ける気もします。
 つまり、「王家に剣を向ける」=革命ということなのですから、本来はプラント外の人間(すなわちプラントの王家に対する忠誠心など欠片も存在しない外国人)であるシンを倫理的・精神的な拠り所としてしまうのはそんなに不自然でもないでしょう。外国人ならば、異国の王家を滅ぼすことに対して躊躇いも感傷もほとんど持たないはずですから。
 もちろん、実際のところはクライン家がプラント社会における王家のようなものであるかどうかは不明です。
 ですが、ラクスが一面識もないザフト兵から「ラクス様」と呼ばれる場面は何度も作中で描かれています。
 先々代の最高評議会議長パトリック・ザラの息子であるアスラン・ザラは一度も「アスラン様」と呼ばれたことがありませんし、現在の最高評議会議長ギルバード・デュランダルも「ギルバード様」と呼ばれたことがありません。
 すなわち、「最高評議会議長の娘」だからラクスが「ラクス様」と呼ばれているわけではないことは確実です。クライン家がプラント社会において何らかの高貴な意味をもつ家系であるからこそ「ラクス様」と呼ばれているのだと思うのです。
 そんな風に考えるならば、今回の終わりの方における議長の

デュランダル 「さあ、今度こそ消えていただこう、ラクス・クライン」

 という言い回しにも、クライン家の人間であるラクスに対する特殊な感情がこめられているような気がしてきませんか?(笑)
 ▼ただし、議長はラクスを「敵の総大将」とは考えていないようです。
 かつて議長はラクスをチェスの駒に喩えてこう言いました。
 「白のクィーン」と。

デュランダル 「白のクィーンは強敵だ」(PHASE-35 混沌の先に)

 クィーンをとってもチェスの勝敗は決しません。あくまで「キング」をとらない限り勝ちではないのです。どんなに強大な能力を秘めていても、クィーンはキングを守る駒のひとつにすぎません。
 あえて「クィーン」に喩える以上、「キング」に相当する人物あるいは組織が存在するはずです。
 それでは、議長の考える「キング」=「敵の総大将」とは?
 実はその人物(あるいは組織)は未だ画面には登場していないのではないか、という気がします。
 そして、これこそが第三部への布石ではないか、とも。

[17-09-25]