「あいつも夢があって、そのために頑張る奴だから」

アスラン 「議長やレイが厄介なのはそこなんだ。話してると、かれらの言うことは本当に正しく聞こえる」
キラ 「…だよね。それは分かる。実際正しいんだろうし」
アスラン 「シンも……そこから抜け出せないんだ、おそらく。あいつも夢があって、そのために頑張る奴だから」
キラ 「……そっか」

▼「そっか」と言った時のキラは憂い顔でした。『ますます戦いにくくなっちゃったな』という感情の表れではないでしょうか。相手の人となりを知ってしまえば、戦意は鈍るものだと思うのです。とりわけキラのように本来闘争的ではない性格の人間ならば。
 そして、これはキラがシンに殺される伏線であるような気がしないでもありません。
 フリーダムとデスティニーの戦いでフリーダムが優位を占め、デスティニーを制しそうになった瞬間、この時のアスランの言葉がキラの脳裏に蘇り、攻撃をする彼の手が止まってしまう。
 その一瞬の隙を衝き、起死回生を狙ったデスティニーの一撃がフリーダムのコクピットを貫く……というそんな展開の。
 といっても、そもそもキラVSシンがもう一度あるかどうかも不明ですが(汗)。
▼こんな暗い予想よりも、今はアスランのことを考えた方が建設的ですね。今回、アスラン大活躍でしたし。気苦労も並大抵のものではありませんでしたが(笑)。
 前回のキラとの会話でアスランは、シンとの間にあったことを回想しながら、

キラ 「みんなの夢が同じだといいのにね」
アスラン 「いや、同じなんだ、たぶん。でも、それを知らないんだ、俺達はみんな」
(PHASE-45 変革の序曲)

と言ってました。
 また、前々回では、議長→レイ→シンの順番で脳裏に思い浮かべ、

アスラン 「俺は……そんなに諦めが良くない!」
(PHASE-44 二人のラクス)

と主張しました。これは「議長とレイの束縛からシンの心を解放する努力を諦めない」という意味も含んだ発言だと思います。
 この他にも、鉄拳修正をしてみたり(「鉄拳」というか、「平手打ち」でしたが/笑)、言葉で嗜めてみたり、それだけではなく褒めるべきところはちゃんと賞賛してやったり……アスランはシンのことを本当に気にかけてましたよね。
 議長やレイがシンのどんな行動に対しても「お前は正しい。間違っているのはお前以外の他人だ」と絶えず吹き込んでシンの思考を停止させていることと比べれば、アスランのシンに対する心配りがよく分かります。
 そして、レイはシンが自分の頭で考え始めようとすると邪魔をする。

アスラン 「聞け、シン! 議長やレイの言うことは、確かに心地よく聞こえるかも知れない! だが、かれらの言葉はやがて世界の全てを殺す!」
シン 「えっ」
アスラン 「俺はそれを……!」
レイ 「シン、聞くな! アスランはすでに少し錯乱している!」
アスラン 「ふざけるな!」
レイ 「惑わされるな、シン!」
アスラン 「シン! どうしても討つというのなら、メイリンだけでも降ろさせろ! 彼女は……!」
レイ 「彼女はすでにあなたと同罪だ。その存在に意味は無い」
シン 「レイ……」
レイ 「敵なんだ、彼は……かれらは! 議長を裏切り、我らを裏切り、その想いを踏み躙ろうとする。それを許すのか? お前は言ったろ、そのためならどんな敵とでも戦うと!」
(PHASE-37 雷鳴の闇)

『自分で考えるな』
『与えられた情報で満足しろ』
『そして、与えられた役割を全うしろ』
 上記に引用したレイの台詞からはそんな彼の心の叫びが伝わってくるようです。
 そしてそれはアスランの言う「かれらの言葉はやがて世界の全てを殺す」という言葉そのものです。
 他人に定められるまま、自らの自由意志を持つことが許されない世界。
 おそらくはレイこそが作中世界においてDESTINYプランの具現化、申し子のような存在なのでしょうね。
 ……脱線してしまいました。今はレイ談義をしているのではありませんでした(笑)。アスランのことです。
 色々彼の台詞を引用したのは、アスランがそれだけシンのことを気にかけ心配しているということを書きたかったからなのです。
 それは何故なのでしょうね。
 元々相性がよいのか(といっても、アスランからの一方通行気味の感情ですが/笑)、それともニコルに対して果たせなかったことをシンを相手に代償行為としてやっているのか……そのあたりはよく分かりません。人と人との感情なんて理屈ではありませんしね。
▼ところで、このことからひとつ予想していたこと。
 最終回、シンはアスランを討つ。そしてその後で彼がどれほど自分のことを考えてくれていたか知り、そして自分はレイに操られる人形だったことを知る。
 自分を道具としてしか見ていない人間に言われるままに、自分を大切に思ってくれた人を殺してしまった──そんな罪の意識がシンの心を苛み、そして……
 という真っ暗な展開もあるかも知れないなー、とこっそり考えていたのですが(簡単に言えばTV版『Z』のカミーユ風エンド/汗)、今回のお話で「それはまず無いんじゃないかな」と思うようになりました。
 そのことについては次回。

[17-09-04]