「その努力を打ち砕こうとするなんて、許せないじゃない」
▼キラさんの素敵ポエム。
毎日のようにこのような言葉をボソボソと枕元で囁かれたなら、いくらコーディネイターでも精神的に参っちゃいますよね…。
アスランの回復が遅いのはそのためでしょうか(笑)。
あの日──
ラクスを襲ったコーディネイターの暗殺者と戦ったその日から、僕はまた、モビルスーツに乗っている。
そして、今もまた、僕はラクスとエターナルを守るため、宇宙(そら)を目指す。
無事でいて、ラクス。
僕が…すぐに助けに行くから。
どれだけ傷つけあって、どれだけ血と涙を流せば──戦いが終わるのだろう。
後に残るのは──
癒しようの無い悲しみと…やり場の無い怒りと…限りの無い憎しみの連鎖だけだと言うのに。
そして戦いの果て──
僕はフリーダムという名の剣を砕かれてしまった。
アスラン──
君は言ったよね。
こんな愚かな争いを一日も早く終わらせるために、プラントは──デュランダル議長は戦っているんだって。
僕やマリューさん達のしていることは、ただ徒に戦場を混乱させているだけだって。
でも、それは本当に…そうなんだろうか。
確かに、君の言うことも分かるけど──
でも、ラクスが襲われたあの時に…僕は感じた。
何か…とてつもなく大きな意志と力が、この戦いの影で蠢いているのを。
なぜザフトはアークエンジェルを攻撃するの?
そしてなぜ…今またエターナルを沈めようとしているの?
アスラン──
君は僕の問いに答えられるの?
君が信じるようにデュランダル議長を信じることは…僕には出来ない。
だって、戦いのない世界を作るためだからといって、こんなにも多くの血を流さなきゃならないなんて、どうしても、僕には正しいと思えないから。
戦いによって勝ち取られた世界は…また新しい戦いを呼んでしまうんだ。
アスラン──
君はウズミさんが言ってたこと、まだ覚えているかい?
「このまま進めば、世界はやがて認めぬ者どうしが際限無く争うばかりのものとなろう。そんなもので良いか? 君たちの未来は?」
だから、今度こそそんなことにならないようにって、カガリも君も頑張ってきたんじゃない。
戦いじゃなく、言葉で…話し合いでわかりあう道を探そうって。
君と僕に出来るのは…確かに、ただ戦うことだけなのかもしれない。
そして…戦いからは何も生まれないんだ。
でも、ラクスやカガリたちは…一生懸命、未来を切り拓こうとしている。
その努力を打ち砕こうとするなんて、許せないじゃない。
だから僕は…まだ戦っているんだ。
いつか、全ての戦いが終わって…誰もが心から笑って手を取り合えるときを迎えるために。
僕達は…その日のためにここにいる。
そうでしょ? アスラン。
果てしの無い戦いの連鎖から、世界を解き放ち、自由な未来を築くために……。
▼「戦いからは何も生まれない」とキラは言っています。
だけど彼は「まだ戦っている」。それは「全ての戦いが終わ」「るときを迎えるため」。[A]
ところがキラはこうも言っています。「戦いによって勝ち取られた世界は…また新しい戦いを呼んでしまう」と。[B]
[B]を前提とするならば、[A]の行動を取る限り、永遠に戦いは終わりません。
つまり、キラの言っていることは矛盾している……ということになってしまいそうです。
他方、彼はこう言いました。
「ラクスやカガリたちは…一生懸命、未来を切り拓こうとしている。その努力を打ち砕こうとするなんて、許せない」と。
ここでキラの言う「その努力」とは「カガリ」が「頑張ってきた」「戦いじゃなく、言葉で…話し合いでわかりあう道を探そう」とすることでしょう。[C]
結局、キラの言葉[A][B][C]を矛盾無く理解しようとするなら、こういうことになるでしょうか。
──カガリとラクスは対話による平和を望んでいる。
──だけど、この世界にはそんな彼女達を暴力で排除しようとする者が存在する。
──だから、彼女達を守るために自分は戦っている。
すなわち、キラは自分の戦いをカガリとラクスの露払いのためだと規定しているようです。戦いを終わらせるのは彼女達の役割であって、自分の行動で戦争が終わるなどとは微塵も思っていない。
こう考えれば、キラが戦場で相手をなるべく殺さないようにするという(ある意味)かなりふざけた戦い方をしている理由も分かります。
つまり、ロゴス(地球連合)もザフトもお互いに相手を屈服せしめるために戦っています。
これに対するキラの心情としては、『自分は相手を屈服させるために戦っているわけではない』ということなのだと思うのです。…もちろん、それはあくまでキラの内心であって、キラに落とされたパイロット達が彼の行動をどう解釈するかはまた別の問題ですが。
▼もっとも、「話し合いでわかりあう道」といっても、現在、ラクスもカガリも戦場に立っています。
これは作品のテーマに大きな矛盾を創り出すものではないか。
彼女たちは戦場に出すべきではなかったのではないか。
そういう疑問も持ってしまいます。
ですが、たとえば次の設問にはどう答えるべきでしょう。
強大な異民族がいきなり侵攻してきた時に、戦いもせずに彼らの前に膝を折りその靴を舐めるか、それとも自らの誇りをかけて立ち向かうか。
どちらを是とするか、あるいは別の方策を採るか。いずれにせよ、答えは人によってまちまちだと思います。「これこそが唯一無二の正解」というものは無いでしょう。
そして、その無数の解答の中から『DESTINY』製作陣の選んだ答えは「自らの誇りをかけて立ち向かう」ということなのだと思います。
だから、カガリは暁に乗っている…のではないでしょうか。
何といっても、話し合う前に攻め滅ぼされたら「わかりあう」どころではなくなりますから。
▼ただし、現在オーブとプラントは戦闘中ですが、カガリは話し合いの道も諦めていません。前回、彼女はジブリールの身柄の確保を急いでいました。ザフトの要求しているジブリールの身柄の確保とは、すなわちかれらとの話し合いのための土台作りでしょう。
カガリ 「ユウナからジブリールの居場所を聞き出せ! ウナトは行政府だな。回線を開け!」
まずは現在セイラン家に奪われているオーブにおける彼女の指導的立場を回復する。
同時にザフトの侵攻を食い止める。
他方、ジブリールの身柄を確保する。
その後で話し合いに移行する。
これがカガリのPHASE-40におけるプランでしょう。
ただし、ラストで計算違いが起こりました。
デスティニーの登場です。
その姿を目にした瞬間、カガリの脳裏に浮かんだのは、デスティニーとデストロイの戦闘でした。すなわち、ヘブンズベースにおける戦闘です(PHASE-38 新たなる旗)。
PHASE-38のラスト近くにおいて、
「司令部に白旗を視認。敵軍、さらなる戦闘の意思、無き模様」
この台詞の後、デスティニーがデストロイを破壊するシーンが流れました。
つまり、デスティニーのパイロットは降伏しようとする者も許さない冷徹な殺戮者。
ヘブンズベースの戦闘の当事者でなかったカガリがそのような印象を抱いていたとしても、不思議ではありません。
そして彼女は己の国と民を心の底から愛しています。
カガリ 「国土を守るんだ! どうかみんな、わたしに力を!」
そんな彼女にとって、“殺戮者”デスティニーのオーブ上陸は何としても阻止したいところでしょう。
だから、暁を駆りデスティニーに立ち向かっていったのだと思います。
PHASE-28(散る命、残る命)では、SEED発動状態のシンの不意打ちをあっさり交わすなど、実のところ『DESTINY』における彼女はかなり優秀なパイロットとして描写されることもあります。
ですから、(PHASE-40のヒキのこともありますし)カガリVSシンは結構面白い勝負になるかも知れませんが、でも、結局キラVSシンの前座なのでしょうねー(笑)。
[17-07-31]