「オーブ軍、直ちに戦闘を停止せよ!」
今回はキラ大活躍の巻♪
しばらく物語に登場しなかった鬱憤を晴らすかのように大暴れしましたね。満足まんぞく♪
でも、まず最初にひとこと。
今回のお話で、今作『DESTINY』においてアスランがSEEDを発動させない(「できない」ではなく「させない」)理由がようやくわかったような気がします。
カガリ 「私はオーブ首長国代表カガリ・ユラ・アスハ!
オーブ軍、直ちに戦闘を停止せよ!
軍を退け!
現在、訳あって国元を離れてはいるが、このウズミ・ナラ・アスハの子カガリ・ユラ・アスハがオーブ首長国連合代表であることに変わりは無い!
その名において命ずる!
オーブ軍はその理念にそぐわぬこの戦闘を直ちに停止し、軍を退け!」
▼今回は前作『SEED』終盤を思わせる展開でした。
すなわち、
地球軍とザフトの交戦する場に出現
↓
停戦するよう説得(←前作ではラクスの役目でした)
↓
聞き入れられない
↓
次善の策として両軍の戦闘力を奪う
前作終盤でキラ達の行動は上記のパターンの繰り返しでした。
戦いを止められないならば、せめて失われる命を減らそう。
そのために、コクピットを狙わず、機体そのものも壊さず、ただ武器や腕を壊しMSの戦闘力のみを奪う……ということだったのでしょう。
そして、それは今回も……
ただ、前作と違うのは、前作では上記行動に賛同しているように見えたアスランが、今回のキラの行動に批判的だったということです。
アスラン 「キラやめろ! 何でお前がこんな!」
今回、アスランがキラとの通信を試みる場面が何度も繰り返し映されました。上に引用したセリフから推測するに、どうやらアスランはキラを止めようとしていたみたいです。
しかし、今回のキラの行動は前作終盤でアスラン自身も行っていたことです。
それがなぜ今のアスランには受け入れられないのか。
しかも、次回予告では次のようなナレーションが流れました。
『想いだけでも、力だけでも』。
それを知る心は同じ。
何が隔てたのか分からぬまま、人は何時の間にか違う道に立つ。
求める未来は同じなのに、そこに至る道は違う。それゆえ、アスランは今、キラと袂をわかとうとしている。
次回予告で言っていることはそのような意味だと思います。
▼実は前作において、既にアスランは次のようなことを口にしていました。
アスラン 「何もお分かりでないのは父上なのではありませんか!? アラスカ! パナマ! ビクトリア! 撃たれては撃ち返し、撃ち返してはまた撃たれ! 今や戦火は広がるばかりです! そうしてただ力と力でぶつかり合って、それで本当にこの戦争が終わると、父上は本気でお考えなのですか!?」
(『SEED』PHASE-42 ラクス出撃)
今回、キラのやったことは両軍の戦闘力を奪い、力ずくで戦闘をやめさせることでした。
これは、確かにその場における戦闘をやめさせることはできるでしょう。
しかし、その成果は刹那的です。戦争そのものをやめさせる結果には繋がりません。
それどころか、かえって現場で戦っている者達の不満を募らせる=憎悪を拡大する結果にもなりかねません。
現に、今回のラストにおいて、戦場から離脱するアークエンジェルとフリーダムのことを、タリアもシンも歯軋りし憎悪にギラつく瞳で見送っていました。
また、ハイネやステラもキラに対し、
ハイネ 「手当たり次第かよ! この野郎、生意気な!」
ステラ 「わたしを……わたしをよくも……!」
と、殺されなかったことを感謝するよりも、フリーダムに対する敵愾心を募らせるばかりでした。
もう一度、前作におけるアスランのセリフを引用します。
アスラン 「ただ力と力でぶつかり合って、それで本当にこの戦争が終わると、父上は本気でお考えなのですか!?」
殺し合いではありませんが、「力と力でぶつかり合って」いるのは、今のキラ達も同じなのです。
それゆえ、アスランはキラを止めようとしたのではないでしょうか。
▼確かに、前作において、それでもアスランはキラ達に協力していました。
でも、それが正しい道──唯一絶対の正しいやり方だとアスランが考えていたわけではないことは、次の彼のセリフが示しています。
アスラン 「あの時、俺聞いたよな? やっぱりこのオーブで」
キラ 「うん」
アスラン 「『俺たちは本当は何とどう戦わなきゃならなかったんだ?』って」
キラ 「うん」
アスラン 「そしたらお前言ったよな? 『それもみんなで一緒に探せばいい』って」
キラ 「うん」
アスラン 「でも、やっぱりまだ見つからない」
(PHASE-08 ジャンクション)
アスランはキラに向かい「やっぱりまだ見つからない」と言っています。
つまり、これは彼が前作終盤における自分達の行動を正しいものだと考えていなかった証拠だと思うのです。
あのやり方が正しいものだと思っているなら、
「まだ見つからない」
と口にするはずはありません。
▼このように、『DESTINY』において主人公のアスランは正しい道を求めて未だにさ迷っています。
これに対し前作の主人公キラはどうなのでしょう。
今回、彼は次のような会話をカガリと交わしています。
キラ 「カガリ、もう駄目だ」
カガリ 「えっ」
キラ 「残念だけど、もうどうしようもないみたいだね」
カガリ 「キラ……」
キラ 「下がって。あとはできるだけやってみるから」
カガリ 「くっ……キラ」
「残念だけど、もうどうしようもない」
キラの言葉には深い諦念が漂っているように感じられます。
アスランがより良き道を求めて悩み模索しているのに対し、キラは早々と諦めてしまっているみたいです。
前作においてキラはこんなことも言っていました。
キラ 「でも、戦争だから仕方ないよね」
おそらくキラは人類そのものにそんなに期待をしていないのではないか。
人間はそんなに素晴らしい存在ではないと考えているのではないか。
そのような気がします。
前作のラストでキラは呟きました。
キラ 「ぼくたちは…どうして…こんなところへ…来てしまったんだろう……ぼくたちの世界は」
(FINAL-PHASE 終わらない明日へ)
▼あるいは、このように評価できるかも知れません。
ある段階で物事に見切りをつけることのできるキラは現実主義者、
より良き道は無いか、常に悩み模索するアスランは理想主義者、
……と。
どちらが正しいというわけではないでしょう。
この二人は対照的な性格・存在として設定され、物語を支配している。
要するにそういうことだと思います。
▼ともあれ、アスランはかつてこんなことも言っています。
アスラン 「……オーブで、いえ、プラントでも地球でも、見て、聞いて、思ったことはたくさんあります。それが間違ってるのか、正しいのか…何が分かったのか、分かっていないのか…それすら今の俺にはよく分かっていません。ただ、自分の願っている世界は貴方がたと同じだと、今はそう感じています」
(『SEED』PHASE-41 ゆれる世界)
「今はそう感じている」
すなわち、いつかは「そう感じ」なくなる日もくるかも知れない、ということ。
そして、その時がついにやって来た……のかも知れません。
ただ、アスランとキラにはカガリがいます。
諦めの悪い「勝利の女神」が。
前作では、彼女の大きな包容力と諦めの悪さがキラとアスランを決定的な決裂から遠ざけました。
彼女の諦めの悪さは最終回でアスランの生命も救っています。
今作でもカガリが健在な限り、彼女はキラとアスランの仲を取り持とうとするでしょうね。
▼さて、冒頭で書いた通り、今作のアスランはSEEDを発動「できない」のではなく、「しない」──すなわち、自らその能力を封印しているのだと思います。
それは、力では何も解決しないと彼が考えているから。
アスラン 「しかし、そうやって、殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで最後は本当に平和になるのか、と以前言われたことがあります。私はその時答えることができませんでした。そして今もまだその答えを見つけられないまま、また戦場にいます」
(PHASE-19 見えない真実)
キラにしろシンにしろ、「誰かを守りたい」という気持ちで行動しているのですが、そのための手段として、自分達の有する圧倒的な力で物事を解決しようとしています。
その彼らの圧倒的な「力」の象徴がSEED。
他方、アスランは「力」ではなく、何か別の手段で物事が解決できないか模索しているようです。
とするならば、そんなアスランがSEEDを発動させるのは自己矛盾となってしまうでしょう。
彼が己のSEEDを発動させるのは、彼が正しき道の模索を諦めた時、あるいは、正しき道を見つけ、心底それを守りたいと考えた時ではないでしょうか。
……でも、SEEDを発動させない限り、アスランの戦い方も戦果も地味ですよねー(笑)。
[17-03-27]