新ED

▼新EDの冒頭のザフト組の絵は、既に死んだキャラも描かれていて、シンはオーブ組に入っていて──これでミーアをラクスと置きかえれば、「戦争がなければありえた平和で幸せなプラントの光景」という感じでしたね。こういうIF系の描写には結構ジーンとくるものがあります。

「でもあれはガイアのパイロットだわ」

タリア 「敵兵の艦内への搬送など誰が許可しました? あなたのやったことは軍法第4条2項に違反! 11条6項に抵触! 途轍もなく馬鹿げた重大な軍規違反なのよ? これで艦内に甚大な被害が出ていたらどうするつもりだったの!?」
シン 「……申し訳ありません」
タリア 「知っている子だということだけど……『ステラ』? いったい、いつどこで?」
シン 「イオキアの海で溺れそうになったところを助けて……何かよくわかんない子で、俺…自分はその時は彼女も戦争の被害に遭った子だと……」
タリア 「でもあれはガイアのパイロットだわ。それに乗ってたのだから……わかるでしょ」

▼ステラはガイアのパイロットです。
 すなわち、ハイネを殺した人物です。
 ハイネはシンの同僚でした。
 ですが、ステラがハイネを殺した人物だったことに関して、今回のシンは何ら複雑な感情を抱いたように見えませんでした。
 思えば、PHASE-21でステラと出会った時のシンは休暇中なのに一人で行動していました。
 さらに言うなら、PHASE-04で彼は戦死したパイロット仲間のことを少しも気にかけてませんでした。
 すなわち、シンはミネルバの中において希薄な人間関係しか築けていない、ということになります。
 これは、実は物語の今後に関する大きな伏線になっているのではないでしょうか。

 ……と、その前にステラについて。
 彼女は強化人間です。
 薬物や人体改造によって戦闘用に強化されたキャラクターは、ガンダムシリーズにおいて珍しくありません。
 中でも印象に残っている強化人間といえば、私の場合、フォウ、ロザミア、プルでしょうか。
 知らない人のために簡単に解説しますと、


・ロザミア・バダム(『Zガンダム』)
 偽りの記憶を刷り込まれ、成人女性でありながら十歳前後のこどものような言動をする。「落下するコロニー」がトラウマとなっていて、異様に怯える。偶然出遭ったカミーユ(『Z』の副主人公(EDのCAST欄で二番目の位置)。ただし物語はこの少年の視点で進む)を「お兄ちゃん」と慕うが、やがてティターンズの刺客としての本質に目覚め、彼と敵対し、返り討ちに遭う。

・フォウ・ムラサメ(『Zガンダム』)
 ティターンズの強化人間だったが、好奇心から近づいたカミーユに本気の好意を抱いてしまい、彼の大気圏脱出に手を貸す。その後、キリマンジャロのティターンズ本部に配属され、カミーユと再会。しかし彼女はカミーユとの交流の記憶を奪われていた。やがて記憶を取り戻し、ティターンズを抜ける決意をするが、ジェリド(カミーユを宿敵視するティターンズのエリートパイロット。親友や恋人をカミーユに殺された)に殺される。

・エルピー・プル(『ガンダムZZ』)
 アクシズの強化人間(もしかすると純粋なニュータイプかも)。アクシズに潜入したジュドー(『ZZ』の主人公)を発見し、その天真爛漫なキャラクターで彼を振り回す。一度は敵対するも、彼に好意を抱き、アーガマの一員となる。己のクローンであるプルツーからジュドーを守って散った。


 さて、ステラについてですが、彼女は
「幼女のような言動」
「恐怖心を過剰なまでに掻き立てるトラウマの存在」
「記憶の操作」
「敵である主人公への好意」
「消された主人公の記憶(しかし蘇る)」
 等、強化人間の伝統的なパターンを幾つか融合したキャラクターのようです。
 となると、強化人間のもう一つのお定まりのパターンである「主人公の眼前での死亡」も踏襲するのでしょうか。
 シンはステラのことを「守る」と誓いました。
 この誓いには、以前、為す術もなく喪った己の家族への贖罪にも似た想いが含まれているような気がします。
 ということは、もし今後彼がステラを喪うようなことがあれば、あの時の無力感・屈辱・悲しみ・挫折感を再び味わうことになるでしょう。
 そのときシンはとても大きな転機を迎えるような気がします。

 心に深い虚無と絶望を抱えた、そのような人物が辿る未来とは……

 例えば『SEED』のラウ・ル・クルーゼ。
 失敗作のクローンとして誕生した彼は、己の生への絶望の中から人類に対する煮え滾るような憎悪を育て上げました。
 やがてその復讐心は「人類の滅亡」を願う苛烈な感情となり、彼はその一歩手前まで地球世界を追い込むことに成功します。

 他方、かつて「守る」と誓ったフレイを失ったキラ・ヤマト──彼はそれでも虚無感の海に沈みきることはありませんでした。
 また、彼自身、「人工子宮」の実験体として産み出された過去を持っています。
 つまり、キラは実父ヒビキ博士からは単なる実験動物以上の感情を抱かれてなかったのです。
 両親から無条件の愛情を受けて生まれたわけではないという事情はクルーゼと似ています。

 キラとクルーゼ。
 両者の違いは何に起因するのでしょう。
 思うに、キラにはラクスやカガリ、アスランがいたことが大きいのではないでしょうか。
 守るべき人、心の支えになってくれる人、叱咤・激励してくれる人。そういう人達がいる限り、人はそう簡単に全き絶望の闇に落ちることはないと思います。

 それでは、シンには?
 家族をすべて失い、前述したように、戦友であるはずの人達との関係も希薄なシン。
 彼には一体誰がいるのでしょう。
 例えばシンが死んだ場合、『SEED』のPHASE-31でキラが死んだと誤解した時のカガリやアスランのように激しく慟哭してくれる人はいるのでしょうか。
 あるいは、例えば、彼がステラを失い、深い絶望感を抱いた時、通り一遍の慰めではなく、心の底から励ましてくれる人はいるのでしょうか。
 シンがミネルバの誰かと強い感情的紐帯を結んでいるような描写は、残念ながら今のところ為されていないと思います。

▼……もっとも、新EDの「シンを中心にしたルナマリアと背中合わせのステラの絵」を見ていると、ステラにはそんなに悲しい運命が待っているようにも思えません(汗)。
 ステラに「ガンダムシリーズの強化人間」として今までとは違うオリジナリティを持たせるなら、「仲間になった後も戦死しない」という展開くらいしか残ってなさそうですし(笑)。

[17-04-17]