「先ほどは彼のお陰で助かったな、艦長」

ギルバート 「この艦にはもうモビルスーツはないのか?」
タリア 「パイロットがいません!」
アスラン 「!」
 (中略)
アスラン 「右舷のスラスターは幾つ生きてるんです!?」
タリア 「六機よ。でもそんなのでノコノコ出ていっても、またいい的にされるだけだわ」
アスラン 「同時に右舷の砲を一斉に撃つんです、小惑星に向けて」
アーサー 「ええっ!?」
アスラン 「爆発で一気に船体を押し出すんですよ。周りの岩も一緒に」
アーサー 「馬鹿言うな、そんなことをしたらミネルバの船体だって!」
アスラン 「今は状況回避が先です。このままここにいたって、ただ的になるだけだ!」
 (中略)
ギルバート 「しかし、先ほどは彼のお陰で助かったな、艦長」
タリア 「え、はあ……」
ギルバート 「さすがだね、数多の激戦を潜り抜けてきた者の力は」
アスラン 「いえ……出すぎたことをして申し訳ありませんでした」
タリア 「判断は正しかったわ。ありがとう」

▼アスラン大活躍の巻。
 戦闘に対する勘の鋭さや頭の回転の速さを存分に見せ付けてくれました♪
 それにしても、今回の議長はアスランを弄りまくりでとても楽しそうでしたね〜。横目でニヤニヤとアスランを見守っている議長に萌え(笑)。
 議長については陰謀家なのか、ただのミーハーの昼行灯なのか、まだ結論は出そうにありませんが、前者であった場合、彼がアスランを焚き付けることにはどういう目的があるのでしょう。
 部外者のアスランが戦闘に口出しすることを認め、「伝説のエース」であるアスランの卓越した能力を改めて周囲に認識させたということは、彼のザフト復帰への画策の第一歩なのでしょうが、では、それは何のためなのか。
 今更パイロットとしてのアスランが必要だというわけでも無いでしょう。わざわざ亡命した者を呼び戻さなくても、自前のパイロットはザフトで養成できます。
 この場合「アスラン・ザラ」という個人の有している価値・意味に着目すべきだと思います。
 すなわち、パトリック・ザラの息子であり、(かつてラクスがクライン派を糾合したように)ザラ派を糾合しうる存在としての彼の立場に、議長は価値を見出しているのではないでしょうか。
 それでは何のためにザラ派を糾合したいのか。
 前作においてザラ派はプラントにおける反ナチュラル勢力の最右翼でした。
 議長が前作のラウ・ル・クルーゼ同様ナチュラルとコーディネイターの抗争を目論んでいるのなら、ザラ派の復活・台頭は喜ぶべきことでしょうね。
 議長自身はクライン派の継承者として平和主義者としてプラントを治め、その裏で反ナチュラルのザラ派を操る。まあ、もしこの通りなら、悪のボスとしてはかなりステレオタイプだとは思いますが(笑)。

「ミネルバにはギルも乗っているんだ」

レイ 「ミネルバにはギルも乗っているんだ。絶対にやらせるものか!」

▼ずっと年上のはずの議長のことを「ギル」と愛称で呼んでいますね。議長とレイは個人的にかなり親しい間柄なのでしょう。
 仮にレイがフラガ一族のクローンだとしたならば、彼は前作に出てきたコロニー・メンデルの遺伝子研究所の関係者である可能性が高くなります。
 議長もあの機関に関与していて、そこからレイを連れ出したのでしょうか。
 そういえば第3話でイアン艦長が「何かあるたび揺り篭に戻さねばならぬパイロットなど、ラボ(laboratory(=研究所、実験室)の略)は本気で使えると思っているんでしょうかね」と言っていました。
 ということは、ネオの背後にある組織もコロニー・メンデルの研究者集団──ファースト・コーディネイター=ジョージ・グレンを生み出し、ラウ・ル・クルーゼに情報と力を与え、世界を混乱に陥れた勢力なのかもしれません。
 そして、世界に混乱をもたらす真の目的は、前回ネオの言った「やがて全てが本当に始まる日がくる。我らの名の下にね」ということ。
 前作では語られていなかった影の黒幕がついに表舞台に登場したのでしょうか。
 うーん、何だかアシモフの『ファウンデーション』シリーズみたいですね(笑)。
 もっとも、この「ラボ」は新勢力ではなく、ブルーコスモスや地球連合に属する「研究機関」のことなのかも知れませんが。

[16-11-06]

「だからもう、モビルスーツには乗らない?」

ルナマリア 「へえー、ちょうど貴方の話をしていたところでした。アスラン・ザラ。まさかというか、やっぱりというか、伝説のエースにこんな所でお会いできるなんて光栄です」
アスラン 「そんなものじゃない。俺はアレックスだよ」
ルナマリア 「だからもう、モビルスーツには乗らない?」
アスラン 「……!」
 (中略)
ルナマリア 「でも、艦の危機は救ってくださったそうで、ありがとうございました」

▼今回、ルナマリアはアスランに対して皮肉めいた物言いをしていました。
 ところが、前回の彼女はとても楽しそうに

ルナマリア 「操縦していたのは護衛の人みたいよ。アレックスと言っていたけれど、でも、アスランかも♪」

 とシンを相手に噂話をしています。
 こうして見ると、今回と前回とではルナマリアのアスランに対する接し方・評価が違うように見えます。
 ですが『DESTINY』は続き物です。各話のキャラの台詞。性格には整合性・統一性があるはずです。
 そこで、どうすれば矛盾なくルナマリアの言動を捉えることができるか考えてみました。

 今回と前回の違いを検討すると、

・前回はシンとルナマリアだけの会話だった。
・今回はシンの他にレイやメイリン、そしてアスランがいた。

 ということが分かります。
 また、今回の冒頭でルナマリアは、

ルナマリア 「レイみたいな口きかないでよ。調子狂うわ」

 と言っています。彼女にはレイのことを煙たがっている節があります。
 前回カガリに暴言を吐いたシンを窘めたように、レイが完全無欠の優等生であるのに対し、彼女がザフトの制服を改造してミニスカートを履いているちょっと型破り系の赤服エリートであることが、どうもそのことと関係しているような気がします。
 
 ことの真偽はともあれ、「ルナマリアはレイに対してシンほどには親密な感情を抱いていない」と仮定してみます。
 
 さて、我が身を振り返ってみて、誰かと話す時、常に同じ態度で接するでしょうか。
 仲の良い友人達と語らう時と、少し煙たいと感じている人物も一緒にいる時とで、全く同じように闊達に会話をすることができるでしょうか。
 できる人もいるでしょうが、あまり親密な仲ではない人間のいる場所でミーハーじみた本音を漏らす人物はそんなに多くないと思います。
 また、なにより彼らはエリートです。官僚で言えばキャリア組です。ザフトという枠でくくると仲間ですが、赤服、あるいはアカデミーの同期生という枠でくくるならばライヴァル同士です。言い方は悪いですが、要するに熾烈な出世競争の相手です。
 ライヴァルの聞いている場所で「アスランもえもえ〜☆」みたいな発言をするでしょうか? たぶんしないですよね。
 というわけで、今回、レイのいる場所で見せたルナマリアの態度は彼女の本音ではなく、前回シンの前で見せた「アスラン萌え」的なミーハーな態度の方が本来の彼女の姿に近いのではないかな、と思っています。

 ですが、シンも赤服です。その意味で彼もルナマリアにとってレイ同様のライヴァルです。
 なのに、レイのいる所では見せないミーハーな本心、明け透けな本音をシンの前では見せています。
 これはどういうことかと考えると……やっぱり「ルナマリア→シン」的な感情がどこかにあるのかな、と勘繰ってしまいます。
 「×」ではなく「→」、つまり気持ちのベクトルが一方通行であると判断したのは、彼女が前回カガリのことを賞賛する台詞を口にしていたからです。つまり、ルナマリアはシンのアスハ家に対する鬱屈した想いを教えられていないわけで……まあ、まだ始まったばかりのアニメなのに、カップリングについてどうこう考えるのは気が早すぎますね(笑)。
 
 
 ……でも、実はルナマリアに『Z』の以下の会話時のベルトーチカに似たものを感じていたりもします。アスランにはこの時のアムロと同じ雰囲気を。
 参考:『Zガンダム』16話「白い闇を抜けて」より

ベルトーチカ 「戦争は嫌いよ。当たり前でしょ? でも、そのことと戦わなくちゃいけない時は戦うということは別よ」
アムロ 「僕を軽蔑しているんだろ?」
ベルトーチカ 「私はそれほど鈍くはないわ。アムロ・レイの七年間は眠りの時間だったのよ。肉体も、精神も、休養は必要だわ。目を覚ませばいいのよ。そうすれば昔と同じになるわ」
アムロ 「自信がないな」
ベルトーチカ 「あなたは前にカミーユと同じことをやっているのでしょ?」
アムロ 「そうだが……ベルトーチカ、同情ならいい」
ベルトーチカ 「私はそれほど鈍くはないと言ったでしょ。女の愛撫で男を奮い立たせることができるのなら、女はそれをする時もあるのよ」

[16-11-07]

 ちょっとだけ昨日書いたことの続きですが、レイとルナマリアの間に感情的な隙があるというよりも、あの場面のルナマリアは公的な態度を優先させただけのような気が今はしています。
 要するに、公的な場所とプライベートな場面で違う顔を見せているだけでは、ということです。

「はい、マユでーす」

マユ 「はい、マユでーす。でもごめんなさい。今マユはお話できません。後で連絡しますので、お名前を発信音の後に──」

 今回のラストは亡き妹の形見の携帯を握り締めるシンでした。何度も何度も充電を繰り返して、たったひとつ残された家族の思い出が消えないように守ってきたのでしょうね。哀愁溢れる場面でした。
 ここで気になるのは、その少し前のアスランの描写です。アスランは議長達の台詞を反芻しながらミゲルやニコルを思い出していました。
 これらの「ラストのシン」と「回想するアスラン」の場面とは対比を意図しているのだと思います。
 つまり、今回の戦闘でシンやルナマリアと共に出撃していたパイロットが二名戦死しています。彼らはシンの同僚です。ですが、シンがかれらを悼む姿は一切描写されていません。
 これに対し、アスランは散っていった戦友達の追憶に浸っていた。
 シンは同僚パイロットに対する仲間意識などほとんど存在しないことが、今回のお話で明らかにされたわけです。少なくとも、彼の中で「今は亡き家族の記憶」>「数分前に起きた戦友の死」であることは確かです。
 このような描写がなされたのは、おそらく、シンには戦友達すなわちザフトに対する仲間意識や帰属感が希薄であると視聴者に知らせるためなのでしょう。
 それに対し、アスランの回想シーンは、彼にはいまだにザフトに対する未練があることを暗に示しているのだと思います。そして回想シーンに先刻の戦闘時の会話が被さっていたのは、多分、『皆がプラントのために必死で戦っているのに、そしてそのために死んでいった友達もいるのに、今の自分は一体何をしているんだ』という慙愧の想いの現れではないでしょうか。
 シンはザフトに対して帰属意識が無く、だけどザフト以外に彼の居場所は無い。
 他方、アスランはどんなにザフトに焦がれても、帰れない。
 実に対照的な二人です。
 
 ところで、シンには帰るべき場所も──そして今回の(戦友の死にも平然としている)描写を見る限り、守るべき仲間も存在しないみたいです。
 オーブにも帰れず、ザフトにも馴染めない彼は、いわば根無し草。
 ……オープニングの「裸で向かい合うシンとステラ」の場面を思い出してしまいました。 
 あの場面には「寂しい羽重ねて」というフレーズが重なっています。
 根無し草のシンが「寂しい」のは当然として、彼と「重なる」ステラにもおそらく似たような事情があるのでしょう。
 
 また、もし本当にシンに守るべき仲間が存在しないならば──1stガンダムの一場面が思い起こされます。
 ※第41話「光る宇宙」より。

ララァ 「なぜ、なぜ今になって現れたの? なぜ、なぜなの? なぜあなたはこうも戦えるの? あなたには守るべき人も、守るべきものも無いというのに」
アムロ 「守るべきものがない?」
ララァ 「私には見える。あなたの中には家族も故郷も無いというのに」
 (中略)
アムロ 「守るべきものが無くて戦ってはいけないのか?」
ララァ 「それは不自然なのよ」
アムロ 「では、ララァはなんだ?」
ララァ 「私は救ってくれた人のために戦っているわ」
アムロ 「たったそれだけのために?」
ララァ 「それは人の生きるための真理よ」
アムロ 「では、この僕達の出会いはなんなんだ?」

 何となくですが、シンとステラにはアムロとララァの運命が待っているような気がします。
 つまり、ステラはネオに懐いているみたいですし「救ってくれた人」=ネオ、アムロ=シン、ララァ=ステラと置き換えて、似たような会話が『DESTINY』であっても不自然ではないような気がするのです。
 だとするならば、もしかすると『DESTINY』は『Z』ではなく、1stガンダム路線を進むつもりなのではないでしょうか。
 すなわち、アムロが、

「まだ僕には帰れる所があるんだ。こんな嬉しいことはない」

とラスト(第43話「脱出」)で呟いたように、今は根無し草のシンが「帰ることのできる所」を見出すことが、『DESTINY』全編を通したテーマになっていくような気がしています。
 
 ……ん?
 上で「運命」という言葉を使って思い出したのですが、前作『SEED』には「運命の出会い」という回がありました。カガリとアスランが出会うお話。
 そして、今作のタイトルは『DESTINY』=「運命」。
 やっぱり『DESTINY』はアスカガの物語なのでしょうかねー(笑)。

[16-11-08]