「Angel player」

ゆり「『Angel player』? ソフトのマニュアルね。くっそ、この分厚さで全部英語? ただでさえ時間がないってのに。えっと、あ、高く跳ね上がった。これは距離か。意味ないわね。ん? 何これ。やった、これだ! 本来この命令に繋がって勝手に消えるはずだったんだ。じゃあ、その発生条件は何?」

どうしてゆりにプログラムを改変することができるの?
そして改変を施したプログラムがきちんと動作するの?
そもそも、どうしてPCでプログラムを組んだだけで、「かなで」はあんな超絶的な力を発揮できるの?
……あれ?
死後の世界ネタかと思わせておいて……実はサイバーパンクなの?『Angel Beats!』って。

※サイバーパンクとはSFのジャンルのひとつで、簡単に言ってしまえば仮想現実空間ネットワークスペースに入り込んだ集団や個人がそこで色々やらかすという内容の――近い例で言えば『電脳コイル』がそれに当たります。

『Angel Beats!』の舞台は「死後の世界」という設定のゲーム空間で、登場人物(「戦線」メンバー)はそこで遊んでいるプレイヤー、そして今までの物語でかれらが明かしてきた「凄惨な過去」はすべて「ボクの考えたMyキャラ設定」……なのかなぁ。
それは少し残念かも、と思う一方で、一部のキャラ(例えばゆりとユイ)はリアル世界でも知り合いだったりするなら、意外に楽しいかも、とも思ってしまいます。その場合、ハッピーエンドで終わる可能性も高いでしょうから。

それはともかく、この場面のポイントは、
「Angel player」なるソフトをどのような経緯で「かなで」は入手したのか、ということでしょう。
それとも、他から手に入れたものではなく、「かなで」の自作なのでしょうか。
それと、マニュアルが全て「英語」で書かれているという点もポイントのような気がします。
「学園」以外にも「この世界」には人が存在する場所があるのでしょうか。そこで手に入れた(あるいは送られてきた)ものなのでしょうか。
さらに、ゆりの「発生条件は何?」という台詞も伏線になっているのかも知れません。
この「条件」を発見し、満たすことで、「かなで」に対する「分身」による精神的な影響も消え、全て無事に解決するのかも。


「分身は本体に戻るはずだった」

直井「貴様、何をした」
ゆり「『貴様』って。プログラムの書き換え。もう一度あの子が同じ力を使えば追加した能力が発動して、分身は本体に戻るはずだった」
高松「そんなことができたんですか?」

高松のこの台詞はどのように解釈するべきなのでしょう。
どうしてあなたにそんなことができたんですか?」
少しだけ言葉を補ってみましたが、もしこのような意味で高松が発言したのだとするなら、これはゆりへの不信表明にも感じられますね。
つまり、“そういうことができるのに、どうして自分たちに隠していたのだ”ということです。
「一事が万事」という言葉もありますが、“他にも自分たちに隠している事柄があるんじゃないか?”という疑念にも繋がりかねないですよね。
もっとも、その後のかれらの行動を見ていると、ゆりに対する全幅の信頼は微塵も揺らいでいないようです。
何度も死地をくぐり抜けてきた仲間、戦友たちの絆、ということなのでしょう。いいなあ。
と言いますか、「戦線」メンバーにとって、ゆりは完璧超人に見えているのかも知れないですね。
超人というよりも、もっと親密な存在である「姉」かな。何でもできる「格好良い自慢の姉」という感じで。
そして、ゆりもおそらく「姉」としてがんばっている。
第二話で彼女は音無に自分の辛い過去を告げていました。

ゆり「あの日までは立派にお姉ちゃんでいられた自信もあったのに。守りたい全てを30分で奪われた」(EPISODE.02)

かつて彼女が果たせなかった「守りたい」ものを守りきること。
それが彼女の行動原理じゃないかな、と思います。
だけど――
それは今のところあまりうまくいってない。
ギルド降下作戦ではギルドの破棄を余儀なくされ、天使失墜作戦では直井の台頭を招きました。
「守りたい」という想いが空回りをしている。
彼女にはそんな印象が常にあります。
そして、それは同時に、

ゆり「あたしは必死に家の中を探し始めた。頭が酷く痛かった。吐き気がした。倒れそうだった。あの子たちの命がかかってるんだ。探し出さなきゃならないんだ」(EPISODE.02)

という独白を思い起こさせます。
彼女はずっと自責の念に囚われているのでしょう。
弟妹を守ることができなかったということへの。
それが「戦線」のリーダーとして、彼女が必死に行動している理由のひとつであるなら――
すべてがうまく行ったとき――仲間たちを守り切れたとき、ゆりは「満足」して「この世界」から旅立てるのかも知れませんね。


[22-05-22]
文責・てんま


「howling?」

ゆり「何これ? 増えてる? howling? 分身の方が造ったのかしら」

前回の釣りのエピソードが今回の「分身」の伏線になっていたように、ギャグシーンにおける出来事がシリアス部分の伏線になっていることもあって、どんな些細な描写も無視できないような造りになってますよね、このアニメは。
そういう目で見ると、今回の「分身」騒動の黒幕に「竹山」こと「クライスト」がいると考えるのも「あり」かなという気さえしてきます(笑)。
すなわち、
・なぜか起動しなかったabsorbのスキル。
・「かなで」のPCをクラックするスキルを待つのは、ゆりを除けば「竹山」だけ。
という事実を組み合わせれば、「竹山」が密かに「かなで」のPCをクラックしてabsorbのスキルを改竄した、という推論だって成り立つのではないかと。
そうだとするなら、この場面の「分身の方が造ったのかしら」という台詞は、「ゆり」や「分身」以外の人物が「かなで」のPCを弄った可能性から視聴者の意識を逸らせるためのミスリードである可能性もあるかな、と思います。


「アホの集まりですから」

直井「まったく。無能な集団だな、貴様らは。もちろん音無さん以外ですが」
ユイ「基本、アホの集まりですから☆」
直井「可能性をひとつ教えてやろう」

ユイは毎回「戦線」の仲間の言動について心底うれしそうに、そして親しみのこもった調子で「アホですね」と言ってますよね。
もしかして彼女、「この世界」に来る前は周りからいつもアホアホ呼ばれてたのかなぁ。
だから「この世界」でお馬鹿さんの仲間が増えてうれしい、と。
そうはいっても、「戦線」メンバーの中でもひときわ突き抜けたアホの子ですからねー、「ユイにゃん」は(笑)。
とはいえ、ユイも「この世界」にやって来た一人です。
ですから、音無たちのような哀しい過去の持主である可能性が高い。
天真爛漫に見える彼女の言動は実は無理をして演じている姿で、「本当は頭脳明晰キャラでしたー」「アホの子を装っていただけでしたー」という展開だって、無きにしもあらずだと思います。
ただ、そちらの展開も大歓迎ですが、その場合でもドジっ子属性だけは失わないでいて欲しいな、と。

それはそれとして、このシーンで少し気になったのは、ユイが直井に対して怯える素振りを見せたこと。
「アホの集まり」と楽しげに言った直後、直井が指をさすようにして再び口を開いた刹那、ユイは慌てて自分の口を塞ぎました。
もちろん、彼女がとても行儀の良い子で、人の話を邪魔したくなかったから、という可能性だってあります。
ですが、「ユイにゃん」ですよ?
普段、あんなにも遠慮なしで「戦線」メンバーに絡みまくっている彼女の態度としては、少し不自然に思えます。
そういえば第六話(Family Affair)で直井と遭遇した場面でも、

ユイ「ひいいっ」
直井「そこまでだ、貴様ら!」
ユイ「あたし、トイレですぅぅっ」(EPISODE.06)

見ようによっては不自然なくらい、直井に対して怯えていたような気がします。
そして極めつけは次に引用する台詞。

日向「大山ーーっ」
音無「お前、サイテーな」
直井「あ、音無さん違うんです。聞いてください。言葉の綾ですぅ。次はボクが行きますからー」
   サクッ
日向「…………………おい、誰か何か言ってやれよ」
ユイ「や、あたし名前知らないですし」

「名前を知らない」って……そんなにか、ユイにゃん。
そんなにも直井神との間には触れたくない何かがあるのか、と勘ぐりたくもなります。

直井「生徒会副会長の直井です。我々は生徒会チームを結成しました。あなたたちが関わるチームは我々が正当な手段で排除していきます」(EPISODE.04)

第四話(Day Game)の球技大会のエピソードで直井は初登場したのですが、彼が名乗りをあげたこの場面に彼女は居合わせました。
だから、直井の名前を知る機会はあったわけです。
しかも、直井はその後「戦線」に対してあれだけのことをした人物。良くも悪くも有名人のはずです。

※もっとも、この点に関しては、ユイ以外の「戦線」の皆にだって、「かなで」の名前すら知らなかった、という事実もあるのですが……(笑)。

なのに、ユイは「知らない」と言い出す始末。
何かありそうな気がしますよねー。
とりあえず思いついた理由は以下の通り。
(1) ユイにゃんがアホの子としてひたすら突き抜けた存在だから。
(2) 改悛前の、すなわち、「この世界」から消えないために一般生徒に暴行していた頃の直井に、NPCと誤解されて暴力を振るわれた過去があるから。そしてその際「ボクのことは忘れるんだ」と催眠術をかけられ、その効力が未だに続いているから。そのせいで、名前を聞かされてもそのたびに忘れてしまうから。
……ま、ここまで引っ張っておいて何ですが、ありそうなのは(1)かな、と(笑)。
もちろん、ユイがアホの子のふりをしているだけで、彼女の言動には何か深い理由がある、という方が面白いのですが……。

※直井が「神」を名乗っているのがギャグではなく実は真実で、さらにユイが悪魔のしっぽと羽の生えた制服を着用していることに見かけ通りの意味がある……という可能性も、今のところ完全には否定できないですしねー。


「待ってて、センパイ」

日向「あの子はお前を待ってる。そんな気がするからだ。だから、お前は進むんだ。いいな。あと、もし……」
ユイ「行くんなら、とっとと行けや!
   …………待ってて、センパイ」
音無「お前、あいつのこと好きなのか、嫌いなのか」

日向の親友ポジションにいる人物の発言には重みがあると思います。
そうかー、音無視点でも、ユイから日向に対して気持ちのベクトルが向かっているように見えていたわけかー。
そして、もしかすると、心の中でニヤニヤしながら、ふたりが関節技を極め合う様子を見ていたのかー。……って、それは私か(笑)。
というわけで、いつも子犬のように日向に「かまってかまって」とまとわりついているユイがとてもかわいいのです。

※ま、実際、日向とユイのやりとりは子犬どうしのじゃれ合いみたいにも見えるわけですが。

それと、この会話で気になることは、日向が何か言いかけたのを遮るようにして、ユイが彼に吶喊するようけしかけたことです。それも、不自然なほど攻撃的な口調で。
この時、日向は何を言おうとしたのでしょう。なにやら遺言っぽい雰囲気のようにも感じられましたが……。
不自然といえば、第四話(Day Game)でもそうでした。

日向(こいつを捕れば、終わるのか? そいつは最高に気持ちがいいな……)
音無(捕るな、日向。俺は、俺はお前に消えて欲しくない!)
ユイ「スキあり! よくも卍固めにしまくってくれたなっ、このーーーっ」(EPISODE.04)

試合中ですよ?
それも、あれを捕球すれば試合終了という場面ですよ?
普通はしないですよね、あんなこと。
もちろん、あれがギャグシーンだから、そしてユイにゃんがアホの子だから、何も考えずにあんなことをしちゃった……という可能性も否めません。
ですが、ユイも音無と同様、日向に「消えて欲しくな」かったから、という可能性だってありますよね。

音無「お前、消えるのか?」
日向「え?」
音無「お前、この試合に勝ったら、消えるのか?」
日向「……消えねえよ。なんで……こんなことで……消えるかよ」(EPISODE.04)

この会話の時、ユイは一塁を守っていました。音無の台詞が彼女に聞こえたとしても不思議ではないと思います。

思えば、そもそもユイが日向のチームに参加した経緯自体、不自然なものでした。

音無「そんなこと言っても、目を付けてた連中、断られまくってるじゃないか」
ユイ「そうそう。見てましたよ。なのでー、ユイにゃんが加勢しにやってきたわけです」(EPISODE.04)

や、ユイにゃんさんには申し訳ないけど、不自然ですから、それ。
だって、日向はこう言ってましたよ?

ユイ「ユイって言います。よろしくお願いしまっす☆」
日向「……誰、こいつ?」(EPISODE.04)

つまり、同じ「戦線」メンバーではあるけれど、この時点まで日向とユイには面識がなかった、ということ。
知り合いでもないのに、ユイは日向のことをつけ回していたのでしょうか。
……もちろん、たまたま彼らが断られる現場に出くわした、というだけなのかも知れません。
ですが、だからといって、

ユイ「お困りのようですなー、ふっふっふーん」
日向「何だ、悶絶パフォーマンスのデスメタルボーカルか」
ユイ「ンなパフォーマンスするキャラに見えるか?!」
日向「見えるよ、十分。……で、何の用だよ」
ユイ「メンバー足りないんでしょー? あたしー、戦力になるよー?」(EPISODE.04)

と申し出る必要もないでしょう。余計なお世話というものです。
ただ、
(1) ユイの方が一方的に日向を知っていた。例えば何かのアクシデント(上で書いたような、改悛前の直井の暴力など)に見舞われたユイを日向が助けていた、とか(ただし日向の方は助けた相手のことは覚えてなかった)、
(2) 実は「この世界」に来る前から日向とユイは知り合いだった(それも、かなり親密な)。ただし、日向はそこまで記憶が回復しておらず、ユイだけが一方的に覚えている、
などの可能性はあるかも知れないな、と。

そうだった場合、(センパイが思い出してくれなくて、せつない、悔しい、ええい思い出すまで絡んでやるー、べたべたしてやるー)となっても不思議ではないでしょうし、日向が消えないように行動するのも当たり前じゃないかな、と。


[22-05-23]
文責・てんま


「あなた、やけにこの子を庇うのね」

音無「でも、かなでが強い攻撃の意志を持つことなんてない」
ゆり「どうでもいいけど、あなた、やけにこの子を庇うのね」
音無「それは……かわいそうだろ」
ゆり「ふうん。ま、いいけど」
ユイ「あっ……んー……」

「かなでが強い攻撃の意志を持つことなんてない」ですか。
もう、にやにやしながら見ざるをえません。
音無にとって「かなで」はまさに天使なんだろうな、と(笑)。
あ、この場合の「天使」は通常の用法で使う方の意味ですよ、もちろん。
つまり、「純粋」とか「無垢」とか、そういうイメージの。

ところで。
ゆりの台詞、「どうでもいいけど」「ま、いいけど」。
何と言いますか……(ジェラシー?)と勘繰りたくもなります。
ユイも何か感じたみたいなんですよね。「ま、いいけど」とゆりが言ったとき、「あっ」と小さく呟いて、何か考える素振りを見せました。
少なくとも、いつものゆりとは雰囲気が違うな、程度のことは感じていたのではないでしょうか。
そして、もうひとつ気になったのは、「かなで」に対する「この子」という呼び方。「天使」呼ばわりではなく「この子」呼ばわり。
普段のゆりなら、この場面の台詞は「あなた、やけに天使を庇うのね」という言い方になるのではないかな、と思うのです。
「天使」という呼び方よりも「この子」という呼び方の方が情感がこもっているように感じられるのですが、いかがでしょうか。
実のところ、ゆりは以前にも「かなで」に対して単なる敵対存在という以外にも何らかの特殊な感情を抱いているように思われる物言いをしたことがあります。
第一話(Departure)の会話です。

音無「天使はこの世界のルールには従順、ということか」
ゆり「不器用ってことよ」(EPISODE.01)

融通の利かない友人に対する歯がゆさ、寂しさ……にも似た印象をこの時のゆりの台詞に感じたのですが……まあ、根拠は特になくて、あくまでも「印象」にすぎません。
ですが、この第一話の台詞が念頭にあるせいで、ゆりは「かなで」に対してひたすら敵愾心ばかり抱いているわけでもないのだろうな、と思いながら、今までずっと視聴しているというのもまた事実です。
さらに言うなら、第五話(Favorite Flavor)のこの会話の場面――

かなで「そんなに不安?」
音無「え、や、そういうわけじゃなく」
かなで「落ち着いて。大丈夫よ。えっと……」
音無「あ、ああ。音無」
かなで「音無くん」
音無「俺もあんたの名前、知らない」
かなで「あたし? たちばな」
音無「下は?」
かなで「下……? かなで」
音無「たちばな……かなで」
音無(美しい響き。名の通り音を奏でるようないい名前だと思った)

音無と「かなで」のやり取りを窺うゆりの表情ですが、どこか尖った視線をしていて、まるで(ふうん、音無くんと「天使」……ううん、「かなで」、何だかとっても楽しそうじゃない。むかむかむか)という表情に見えなくもないな、と(笑)。
あの場面のせいで、実はこの三人、「この世界」に来る前は三角関係にあったんじゃないのか、と疑ったりもしております。
実際、次回予告の台詞を聞く限り、第八話の時点で音無は全ての記憶を回復しているわけではなさそうですし、「かなで」に至っては「この世界」に来る以前の記憶があるかどうかさえ疑わしい。そして、ゆりは「かなで」の名前に関して知らないふりをしていたことから分かるように、色々と隠し事をしている様子です。
すなわち、「この世界」に来る以前のかれらが知り合いだったという可能性が完全に否定されたわけでは、まだありません。
とはいえ、この三人が知り合いだった、というのはあくまで願望にすぎないのですけどねー。むー。


[22-05-24]
文責・てんま


「全部思い出したよ」

[c221]「俺、全部思い出したよ」

公式サイトの次回予告に映像が付いてますね。
どうやら第九話では音無の真の死因が明かされるようですが、何だろう、それを回想する彼のあの穏やかな表情は。

[c83]「絶対に助かろう!」
[c143]「どうせもう誰も助からねーんだからな!」
[c147]「誰かそいつを殴ってよ!」
[c169]「戻れッ!」

第七話(Alive)で描かれた電車事故の後も、音無を含む乗客の多くは当初無事で、それが次第にパニックに陥っていくみたいですが、音無が自己犠牲の精神を発揮してかれら(全員ではないにしても一人や二人くらいは)を救って、彼自身はそのせいで逝ったのかな、と。
だから、そのことを思い返しつつ、満足そうな表情を見せていたのかな、と。

音無(俺はもう一度、生き甲斐を見つけられるかも知れない。生きる意味を見つけられるかも知れない。誰かのために、この命を費やせるのなら……!)(EPISODE.07)

誰かのために生きたい。それが「この世界」に来る前の音無の強い願いでした。
だからこそ、何も果たすことなく人生を終えたと知った(あるいは思い込んだ)彼の落胆はとても大きかった。

音無(惰性で生きて、無気力だった俺は、自分の生きる理由をお前に教えてもらって、見つけて、それで、夢半ばで死んだのか。何も成し遂げられずに死んだのか)
音無「そんなのってねぇよ……ねぇよ……死にきれねぇよ……初音」(EPISODE.07)

けれど、本当はそうではなかったと知って。
失われかけていた誰かの命を救って――自分の生涯にも確かに意味があったのだと知って。
そして、満足を得たのかも知れません。
だから、このような台詞が用意されているのかも知れません。

[c239]「俺は消えるのか?」

満足すれば消える。もし本当にそういうルールにこの世界が支配されているのだとするならば。
音無は消えるでしょう。第三話(My Song)の岩沢のように。
でも、「かなで」の問題はまだ解決していないはずです。
「かなで」に対する想いがある以上、音無が消えるはずはない。音無が彼女を見捨てるはずがない。
彼自身、「かなで」に対して自分は消えないと宣言しています。
さらに言うなら、「戦線」メンバーはいまや大切な仲間となっています。
「分身」による危機が残っている以上、今までに描かれてきた音無の性格からすれば、かれらを見捨てて消えることはとてもできないと思うのです。


[22-05-25]
文責・てんま


「そう。分かった」

音無「そうだ、かなで。無理させて悪いが、ひとつ能力を使って欲しいんだ。ハーモニクスだ。使ってくれたら、みんなが助かる」
かなで「そう。分かった」
音無「使っても、体は保つか?」
かなで「うん、一回ぐらいなら」

音無の願いなら何でも聞くのかなあ、「かなで」は。
そう思えてしまうくらい、「かなで」は音無に対して素直で、従順です。
彼女はぼやきながらも音無の「戦線」の仲間を助けてくれ、という願いに応えました。
川釣りに誘ったとき、戸惑いながらも付いてきてくれました。
その夕べ、「みんなと一緒にいてくれ」という願いにも頷きました。

音無「それに、俺もお前と一緒にいたいからな」
かなで「そう。あなたがそう言うのなら、そうする」
音無「約束だからな」
かなで「うん」(EPISODE.07)

音無の呼びかけに対して律儀に応えてくれる「かなで」。
そんな彼女が沈黙を貫いたことが一度だけありました。

音無「たちばな。俺たちは消えない。だから、仲良くしてもいいんだよ」(EPISODE.07)

川縁で音無がそう言ったとき、「かなで」は黙ったままでした。
この時、彼女の瞳には音無の言葉とは違う未来が映っていたのかも知れません。
一緒にいてくれる。
そう告げてくれた人が消えてしまう。
そんな未来を見ていたのかも知れません。
だから何も言えなかったのかも知れません。
結局、みんな消えてしまう。
今まで何度も別れを繰り返してきたであろう「かなで」はいつかはそうなると知っているから。
……もしそれを寂しい、と思ったとしても、その感情がどういう意味のものなのか、今の「かなで」がはっきりと自覚できているかどうかは、実はまだ不明なのですが。


[22-05-27]
文責・てんま