「ボクは、イノベイドで良かったと思う」

刹那「あれは……ティエリア! ティエリア・アーデ! ………仇は討つ!」
ティエリア(勝手に殺してもらっては困るな)
刹那「どこだ、どこにいる、ティエリア」
ティエリア(今、ボクの意識は完全にヴェーダとリンクしている)
刹那「ヴェーダ?」
ティエリア(ボクはイノベイター……いや、イノベイドで良かったと思う。この能力で、君たちを救うことができたのだから)

▼ティエリアは言いました。
自分はイノベイドで良かった、と。
なぜなら大切な仲間達を守れたのだから、と。
きっと本気で……何の迷いもなく、何の後悔もなく、心の底から彼はそう思っているのでしょうね。
あらゆる意味で純粋な……そしてニールに触発されてからは性格の鋭角さも和らいでいって……最期には、仲間思いのとても心の優しい少年として、ティエリアは逝きました。
こういう無垢な、打算のまるで無い自己犠牲の姿には弱いです。
「イノベイドで良かったと思う」と告げた時の、淡々とした語り口も、今思い出しただけで涙腺が緩んでしまいます。
彼の心はヴェーダの中で永遠に生き続けるとしても……それでもやはり哀しいのです。


「いずれ巡り会う、意志との対話に備えるためにも」

ティエリア(我々の武力介入は、矛盾を孕みつつも世界の統合を促し、たとえ滅びようとも、人類の意志を統一させることになった。それは、人類が争いの火種を抱えたまま、外宇宙へ進出することを防ぐためだ

前回の感想のラストで、外宇宙探査機ボイジャーに収められたゴールデンレコードについて少しだけ触れました。
地球上の様々な時代、地域の文化や言語によるメッセージが収められたこのゴールデンレコードは、まさに人類世界の共存と平和を希求する想いの象徴だと思います。
そして、ゴールデンレコードに関して、当時のUSA大統領ジミー・カーターが声明を残しています。
以下の引用元はNASAのサイトのHowdy, Strangersというタイトルのページです。

"We hope someday, having solved the problems we face, to join a community of galactic civilizations. This record represents our hope and our determination, and our good will in a vast and awesome universe."

カーター大統領(当時)は言いました。
「現在直面している様々な難問を解決し、我々はいつの日か銀河文明の一員となることを願う」と。
ティオリアの告げた「イオリア計画」の全貌。それを聞きながら、この理想主義者の大統領のメッセージのことをふと考えていました。
▼ただ、「イオリア計画」の内容で気になるのは、外宇宙で巡り会うであろう対象のことを、「文明」や「種族」ではなく、「意志」と表現していることです。

ティエリア(人類は、変わらなければ未来を接ぐことができない。いずれ巡り会う、意志との対話に備えるためにも。そのためにも、ボクたちは――)
刹那「わかり合う必要がある」

やはりクラークの『幼年期の終り』が『OO』の底流にあるのかな、と思いました。
「いずれ巡り会う意志」というのが『幼年期の終り』における<上霊オーバーマインド>に相当し、人類をイノベイターに導く役割を負わされたイノベイドたちが人類を<上霊オーバーマインド>に導いた<上帝オーバーロード>に相当する……と評しても、さほど無理な比較ではないと思います。
ただ、『幼年期の終り』は最終的にもの悲しく、とても寂しい結末を迎えました。
『OO』はそうはならないことを願っております。
▼ちなみに、人類をイノベイターに導くという計画については、『OO』2期の最初の頃に伏線が張られています。

ライル「連邦は非加盟国の多い中東全域にGN粒子を撒いている」
#05「故国燃ゆ」

ライルの台詞とともにGN粒子散布装置の描写が行われていました。
GN粒子が「人の革新」を促すという設定であることが物語られた今にして思えば、あれは連邦政府による非加盟国への嫌がらせというだけではなく、漸次「革新」を促すためのイノベイドによる計画の一環であると考えるのが素直だと思います。
そして、この「GN粒子散布装置」の設置が連邦の発足した五年前に遡るとするならば。
マリナと一緒に「ごろごろしたい♪」と歌っている子どもたち――かれらは人生の大半を濃密なGN粒子に包まれて過ごしてきたことになります。
かれらもイノベイターへの進化にかなり近いポジションにいるのかも知れませんね。


「このままじゃルイスも!」

刹那「特攻兵器! くっ!」
ルイス「もう逃げられないぞ、ガンダム!」
沙慈「やめるんだ、このままじゃルイスも!」
ルイス「それがどうした! 貴様たちを倒すためならっ!」
沙慈「ダメだァァァァ!!」

▼『OO』の物語――その最後の最後の段階で、沙慈は初めて武器を人に対して向けました。
自分のためではなく、ルイスを護るために。
今回、ビリーのエピソードもそうでしたが、人を動かすのは高邁な理想や信条やお題目ではなく……結局は大切な人のため、ということなのでしょう。
大切な人を護りたい、大切な人をこの腕に抱きたい。
そのためなら自分の信条だって捨てて構わない。
沙慈の今回のこの行動はそういうことなのだと思います。
……何はともあれ、がんばったね、良かったね、沙慈。ルイスも。


「一時帰還する」

刹那「トレミー、今から一時帰還する」
フェルト「了解」

▼や、思わぬところで刹×フェルシーンが。
何と言いますか、こんな些細なやり取りがあるだけでも嬉しい……というのは、よほど描写に飢えていたのかな、と(笑)。
あ、でも、この時のフェルトの声音ですが、(刹那が生きていてくれて嬉しい)というか、(生きていてくれたんだ…)と泣きそうというか、何だかそのような感情の昂ぶりに震えていたような気がします。
うん、気がするだけです……。
ともあれ、二人とも今日も生き延びておめでとう。

[21-03-22]

「この暖かな光は何?」

ルイス「……ねえ、この暖かな光は……何? 心が……融けていきそうな……」
沙慈「刹那だよ」
ルイス「せつな……?」
沙慈「そうだよ。彼の心の光。未来を照らす光だ」

▼や、ルイスに刹那のことを告げた時の沙慈の表情……すごく誇らしげなんですが。
ぼくのともだちはすごいんだぞ、えへん!
そんな風に自慢してのろけいるように見えました。
刹那が沙慈のことを大好きそうな様子は、今まで何度も描写されてきました。
それだけに気になることもありました。
沙慈は刹那をどう思っているのかな、と。
でも、この場面における沙慈の様子……どうやら、親友ベクトルは刹那から沙慈への一方通行じゃないみたいですね。
良かったね、せっちゃん(笑)。
▼ところで。

シャア「この暖かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ。それを分かるんだよ、アムロ!」
アムロ「分かってるよ! だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ?
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』

かつてアムロは言いました。
「世界に人の心の光を見せ」たい、と。
それは、冷え切った人の心に暖かな気持ちを思い出させたい、という意味だと私は解釈しています。
そして今回、刹那のしたことは、まさにかつてアムロが望み、けれど果たし得なかった夢の実現でしょう。
すべての人に「人の心の光」を見せる。暖かい気持ちを蘇らせる。
確かにそれはとても素晴らしいことなのかも知れません。
だけど……
だけど、誰もがその「光」を受け入れることができるわけではありません。
例えば、アリー・アル・サーシェス。
彼はルイスが「暖かい」と感じたその光を嫌い、「気持ち悪い」と吐き捨てています。

サーシェス「何だ、この気持ち悪い感じは?」

ビリーもルイスも、刹那の見せた「人の心の光」を受け入れました。そして、アンドレイもおそらくは。
かれらは他者と心を通わせて、凝り固まった怨念から解放されました。
けれど、どうしてもその癒しを受け入れる気になれない人々もいる。サーシェスのように。
それも人としてのリアルなあり方のひとつだと思います。

サーシェス「てめえ、あの男の弟か!」
ライル「それがどうした!」
サーシェス「殺し甲斐があるぜ!」
ライル「何なんだ、貴様は!」
サーシェス「オレはオレだァ!」

誰かとわかり合うつもりなどないし、必要もない。
そう考える彼にとって、まさに「オレはオレ」なのです。
変わることなどできない……そして変わるつもりもない。

この項、次回に続きます。
上記会話を引用したときは、沙慈×ルイについて語るつもりだったのに、話題はなぜかサーシェスに(笑)。

[21-03-23]

「世界から疎まれても! 咎めを受けようと!」

ライル「こいつが……こいつが父さんも、母さんも、エイミーも……兄さんも……!」
アニュー(ライル。あたしたち、わかり合えてるよね。わかり合えたよね)

▼銃を下げ、サーシェスに背中を向けたとき、ライルは賭けに出たのでしょうか。
(こんなヤツとでもわかり合えるかも知れない)
そのようなことを考えて。
しかし、サーシェスはそんな彼のことをあざ笑いました。

サーシェス「バカが!!」

そしてライルの背中を狙います。

この時、ライルは確信――いえ、「確認」したんじゃないかな、と思います。
どのような奇蹟を目の当たりにしても、他人を嘲り踏みにじることをやめない輩は絶対にいなくならないということを。
生まれながらの悪人、というのは確かに存在するのだと。
だけど、わかり合おうとする人々もこの惑星には確かに存在します。

ライル「……アニュー、お前のおかげで、人と人がわかり合える世界も不可能じゃないと思えたんだ」

けれど、サーシェスのような人間がいます。
戦いを生業とし、殺し合いを生き甲斐とし、火薬の臭いが無ければ生きていけない種類の人間が。
刹那をはじめ未来に誕生するであろうイノベイターたち、そしてマリナや彼女と一緒に「tomorrow」を歌う子どもたちのような人々が求める新しい世界を、かれらは必ずや破壊しようとするでしょう。
なぜなら、作中、サーシェスが何度か口にしたように、かれらはそのような世界では生きていけないから。

ライル「だから……世界から疎まれても! 咎めを受けようと! オレは戦う。ソレスタル・ビーイングのガンダムマイスターとして」

最初はカタロンの一員として戦い、次いでアニューとの未来のために戦い、そして家族の復讐のために戦っていたライルが、初めてガンダムマイスターとして戦うことを誓った瞬間だと思います。
人の革新をさし示す刹那が「光」なら、ライルはその彼の理想を裏から支える「影」に徹する。
そのような未来を暗示しているのかな、と思いながら、この場面を見ていました。


「気を抜いちゃダメよ」

ミレイナ「敵機80%撃墜!」
フェルト「気を抜いちゃダメよ」
ミレイナ「はいです!」
フェルト「ふ……」

▼何だか妙にワイルドな笑顔に見えました、ミレイナに「はいです」と言われたときのフェルト。
この時点で彼女達の周囲にはGN粒子が充満しているわけで――オペレータのおふたりさん、いったいどんな会話を遠感telepathyで交わしていたのか、気になる気になる気になります(笑)。
もっとも、「気を抜いちゃダメ」と言っているような状況で、たいして面白い内容にはならないとは思いますが。
▼「気を抜くな」という台詞で思い出すのは、次の有名な訓辞です。

神明ハ唯平素ノ鍛錬ニツトメ戰ハヅシテ既ニ勝テル者ニ勝利ノ榮冠ヲ授クルト同時ニ、一勝ニ滿足シ治平ニ安ンズル者ヨリ直ニ之ヲウバフ。
古人曰ク勝ツテ兜ノ緒ヲ締メヨト。
(聯合艦隊解散之辞)

国家と民族の存亡を賭けたロシアとの戦争に日本が勝利し、明治38年12月、聯合艦隊が平時編制に戻る際の東郷平八郎長官による訓辞(一部のみ引用)です。
この文章のテンポが良いですよね〜。
――古人曰く「勝って兜の緒を締めよ」と。
このように現代風に表記するよりも、
――古人曰ク勝ツテ兜ノ緒ヲ締メヨト。
という表記のほうが情緒があります。スラスラ読めないという難点はありますが(笑)。
というのはさておき、今回、ソレスタルビーイングのメンバーはちゃんと「兜の尾」を締めていたのかな。それが気になります。
確かにセラフィムの介入によって、イノベイド側の機械をスリープさせることに成功しました。
しかし、これはあくまで一時的なもの。
爆破するなり、解体処理するなりしておかないと、復活する可能性があるわけです。
そして、Cパートでセラフィムは破壊されました。
すなわち、イノベイド側の兵器は再び活動を開始することが可能になったということです。
トレミーにはオートマトンが侵入しています。
たとえ一時的に機能が停止したとはいえ、元AEU軍人のスメラギさんがこれを放置したままブリッジに来ている……というのは、あまり考えられないことではありますが。
でも、心配ですよね。


「イノベイターを超えたイノベイター」

ティエリア「ボクたちはイノベイターではない。ボクたちはイノベイターの出現を促すために人造的に産み出された存在、イノベイドだ!」
 (中略)
リボンズ「そのイノベイドが進化を果たしていたとしたら? ボクはイノベイドを超え、真のイノベイターすら凌ぐ存在になった」

▼今回、ビリーもリボンズと似たようなことを言っていました。
「イノベイターを超えたイノベイター」と。
そして私は思いました。どのあたりが「超え」ているのだろう、と。

ビリー「彼だ」
スメラギ「彼?」
ビリー「イノベイターを超えたイノベイター」
刹那「そこか、リボンズ・アルマーク!」

リボンズと彼以外のイノベイド。
何が違うのでしょう。
例えば、ヴェーダに意識を移せるというのは、今回、ティエリアとリジェネがやってみせました。
すなわち、あれはリボンズの独自能力ではないということ。
それでは、イノベイドたちを精神支配できるということでしょうか。
だけど、これにしても、

ミレイナ「セラフィム、トライアル・フィールドを発生させたです。ヴェーダとリンクしている機体が、次々と停止しているです」

という台詞、それとネーナと紫ハロ(inリボンズ)のやり取りから推測するに、「ヴェーダとリンク」できる存在に対してなら、ヴェーダを使えばその行動を支配することができそうです(もちろん事前に何らかの細工を施しておく必要はあるでしょうが)。
つまり、イノベイドたちに対する支配力もリボンズが「進化を果たした」証とするには少し弱いように思えます。
そもそも、かれらの言うようにイノベイドが人類の上位存在で、リボンズがイノベイドの上位存在というのなら――そして、精神支配が上位存在に進化した証だというのなら――リボンズはイノベイドだけでなく人類に対しても精神支配を好きなだけ施せなければおかしいですしね。
というわけで、リボンズがイノベイドの進化形だというはっきりとした証を、彼自身はまだ見せてないようです。
どのような超越者っぷりを見せてくれるのか、はたまた彼のただの思いこみなのか。最終回が気になるところですよね。
もし「イノベイドを超え」たというのがリボンズの思いこみだとするなら、彼の心をそう仕向けたきっかけ――あるいは存在がいるわけで。
とするならば。
リボンズも誰かに操られていた!続きは第三部、あるいは映画で!
……という風にならないかな〜と。儚い希望かも知れませんが(笑)。
ともあれ、現在のリボンズはのりまくっているみたいです。現状が楽しくて仕方なさそう。
言いたい放題です。特にこれ↓。

刹那「そこか、リボンズ・アルマーク!」
リボンズ「感謝して欲しいな。キミがその力を手に入れたのは、ボクのおかげなんだよ? 刹那・F・セイエイ」

どこかで聞いた台詞。でも、この声でこの台詞が聞けるなんて♪……と思った人も多いと思います(笑)。

シャア「そう思える力を与えてくれたのは、ララァかもしれんのだ。ありがたく思うのだな」
(『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙そら編』)

ガンキャノンに乗ってシャアごっこをするアムロさん。
何ともカオスですね〜。
だけど……いいなぁ。

[21-03-28]
文責・てんま