終末を抱いた神話

アクエリオンEVOL、終わりましたね。
半年という長い期間見続けた作品がハッピーエンドで幕を閉じてくれるというのは、やはり良いものだな、と。それがまず最初に思ったことでした。
もっとも、この第26話みたいにここまで何でもありで、ずっとテンションが上がりっぱなしのお祭り状態(←理事長がついに搭乗したり、アマタのハートアタックがミカゲを貫いたり)のお話になるのだったら、シュレードもきっちり生還させてくれたら良かったのにな、など物申したいことも多少はありますが。でも、全体的には良かったな、終わりよければ全て良しだな、と、そう思いました。
ところで、最初の頃に不動がよく口にしていた「終末(おわり)を抱いた神話」の「おわり」って、結局、何の終末だったのでしょう。
「世界」の終末?
「アポロニアスとセリアンの愛」の終末?
「トーマ(ミカゲ)の愛憎」の終末?
「『双星』の時代」の終末?
答えは一つではなくて、いろいろな意味をこめて使われていた言葉なのかも知れません。

「力を貸せ、どん底女」

カグラ「俺たちも行くぜ。力を貸せ、どん底女」
ゼシカ「オーケー、この糞男」

カグラ語の特徴は「さかさまっ」ですから、「どん底女」というのは彼の中では「最高にいい女」という意味なのだと思います。
そして、この意味で「どん底女」を使っているであろうことは、このすぐ後の会話でも容易に推測できます。
カグラはアマタにこういいました。

カグラ「ったく、抜けた野郎だぜ。こんなどん底女、泣かせやがって」

「こんないい女を泣かせやがって」と言い換えれば、見事に意味が通りますよね。
わかってるじゃん、カグラ。

「俺が置き去りにしたシルヴィアの悲しみ」

アマタ「俺はあの日母さんを見送った。それを後悔し続けてきた。でもやっとわかった。それは一万年と二千年前、俺が置き去りにしたシルヴィアの、ミコノさんの悲しみ、その気持ちを知るため、こうしてまた生まれてきたんだって!」

第23話および第26話によれば、魂の系譜は、
 ・アポロニアス→不動GEN→不動ZEN
 ・セリアン→シルヴィア→ミコノ
 ・羽犬ポロン→アポロ→アマタ(+カグラ)
と続くようです。
そして、最初に(24,000年前に)愛し合っていたのはアポロニアスとセリアン、すなわち現在の不動ZENとミコノです。
ということは、アポロとシルヴィア、あるいはアマタとミコノが惹かれあうというのは、アポロニアスの視点からすれば、自分のペットだった羽犬ポロンにセリアンを寝取られるということに他なりません。
ところが、そんな姿を見せつけられても、不動は平然としているように見えます。
彼の中のアポロニアスはもうセリアンのことを何とも思ってないのでしょうか。
それとも転生した以上、魂は同じでも完全に別の存在と割り切り、例えばカグラやミカゲのような未練はまるで持ち合わせていないのでしょうか。
そのあたりが第14話の頃からずっと気になっていました。

そもそも、不動=アポロニアスの関係については、第14話で既に伏線らしきものが描写されています。
ミコノに向かって「変わらないな」と懐かしげにひとりごちる不動。
あのシーンを見て以来、彼こそがアポロニアスであって、カグラ(とアマタ)に関してはミスリードじゃないかな、と思っていました。
なぜなら、アマタは前世の記憶を一切持ち合わせてないみたいでしたし、他方、アポロの記憶を持っているらしきカグラはシルヴィアのことを「シルフィ」と呼んでいました。
再会を約束した運命の恋人の名前を間違えるなんて、正しい記憶を持ち合わせているなら、普通はあり得ないことでしょう。
だから、これってミカゲあたりに偽りの前世記憶を植え付けられてるんじゃないのかなあ、と推測していたわけです。
そして、確かにアマタたちはアポロニアスではありませんでした。
でも、アポロではありました。
まさか「アポロニアス≠(等号否定)アポロ」だったとは、夢想だにしませんでした(笑)。
話を戻しましょう。
上に引用した、アマタの台詞。
この言葉に従うなら、彼は前世の失敗を償うために転生を果たしたようです。
ということは、もしかすると、アポロニアスも何らかの贖いをする目的で、不動として転生したのかも知れません。
アマタは自分が「置き去りにしたシルヴィアの悲しみを知るため」に転生しました。
とすると、不動の場合は「目の前で恋人を奪われていくトーマの気持ち」を知り、彼に償うために(というよりも、自分を罰するためかな?)、敢えてセリアンと羽犬ポロンが結ばれる姿を黙って見守っていたのかも知れないな、とそんな風にも思ってしまったのでした。
それとも、アポロニアスとして生きていた時代に同族を裏切ったことへの罰として、何が起きても「不動」、すなわち見守ることしかできないという掟を、(未だ作中では語られていない)誰か第三者(例えばゴッド)に課されている、ということなのかな。

第25話で「それが創星の書が求める運命だから、あなたはずっと動かぬまま、みんなが死んでゆくのを受け入れるのですか? あなたは本当にこれでよいのですか?」と、理事長に詰られて、それでも何も言い返せなかった不動の姿が印象的です。
何を言われても、黙って耐えるしかない。強大な力を持ちながら、自ら動くことは許されない。愛する者たちが苦しむ姿を見守ることしかできず、助言しかできない。手をさしのべることができない……という想像が真実だとしたら、それは歯がゆく、そしてとても苦しいことだと思うのです。

「愛の彼方へ行っちまえ」

カグラ「何て野郎だ。俺はシルフィを愛するために生まれてきた。一万年と二千年の時を超えて。だけど、お前は今を、今のミコノを愛した。……行っちまえ。てめえら纏めて愛の彼方へ行っちまえ!」

それにしても、まるで映画版ジャイ○ンみたいに、第26話のカグラは「きれいな」カグラだったなぁ。
最初から彼がこの性格だったなら、途中の回で色々とフラストレーションがたまることもなかったろうにな、という感想が一瞬よぎりました。
ですが、よく考えてみれば、第25話までのカグラはミコノ(というよりも「シルフィ」ですか)に対する執着と恋慕の情で周りが見えなくなっている、いわば視野狭窄の状態。
それに対して第26話のカグラは失恋を受け入れて、精神的に吹っ切れた状態になっています。
このカグラこそが本来の彼なのかも知れないですね。

ところで、カグラはゼシカのことを「どん底女」と呼びました。
上で記したとおり、これはミコノに対する「糞女」にも匹敵する、彼なりの最大級の賛辞だと思います。
では、彼はゼシカのどんな所を見て「どん底女」と絶賛したのでしょう。
実のところ、この二人がまともに会話をしたのは、第26話が初めてだと思います。
ということは、カグラが感銘を受けたのは、ゼシカの

ゼシカ「お願い、あたしを殺して。あたしが死ねば、ミカゲは太陽の翼を操ることができなくなる。あたし、馬鹿だからさ、ミカゲを止める方法、他に思いつかないんだ。ミコノを失えば、アマタが悲しむ。あたしはアマタを悲しませたくない」

という台詞に対してでしょう。
誰かのために自分を犠牲にすることができる。
その利他的な姿。
「与える愛」と呼んでもいいでしょう。
それまで愛の形といえば「奪う愛」しか知らなかったであろうカグラ(実際、彼のミコノに対する接し方を見ればそのことは容易に想像できます)に対して、口先だけではなく実際に己の身を捧げたゼシカの献身的な姿は、それまで味わったことのない清冽な感動をもたらしたに違いないのです。
そして、その姿を鼻で笑うのではなく(←ミカゲならそうしたことでしょう)、讃辞をこめて接することができるというのは、カグラ自身の本質も本当はそちらに近いからなのだと思うのです。

「恋愛解禁」

不動「以後、恋愛解禁」

普段のどちらかといえば中性的で優しげな顔つきとは違い、ミコノを抱くアマタは男としての自信に溢れた表情をしています。
愛する女性を守り、世界を救ったのですから、意識が変わり、貌つきも男らしくなるのは当然でしょう。
もっとも、アクエリオンの中にいたかれらに対して、(外の世界とは違い)時間はさほど経過したようには見えません。
二人とも衣服はきちんとしていますし、頭髪の長さも変化していませんし、アマタは無精ひげを生やしてません。
そもそも学園近郊での運用が基本のアクエリオンが、長期間の漂流に耐えるだけの食糧を積んでいるとも思えません。
宇宙空間において長期間過ごしたというのなら、何より酸素の問題もあります。
そして第16話では、モロイがアクエリオンのもつ能力について、「時間軸そのものを跳び越え」ることができると推測しています。
ですから、アマタとミコノがアクエリオンと共に時間跳躍をしてこの場に姿を現した、と考えてもさほど不思議ではないと思うのです。
(ちなみに、外の世界で結構長い時間が過ぎているであろうというのは、耳打ち場面で示唆されているように、ドナール教官とスオミ教官の関係性がかなり深化しているように見えることからの推測です。)
……以上、アマタとミコノの感覚では、カグラを倒してからほとんど時間のロスもなく、みんなの前に戻って来たんじゃないのかな、と推論してみました。
何が言いたいかと申しますと、確かにアマタとミコノは一度はキスをして見せました。
だけど恋人になったばかりです。
もう一度キスを、となった時にすごく動揺して、戸惑って、だけど初々しくて、見ているほうが恥ずかしい雰囲気になって、居たたまれなくなって……
だから最後の場面でシュシュが瞳を潤ませていたのは、「ぼくがいるのにミコノもアマタもふたりの世界をつくるなんて訳が分からないよ!」という感じで、ゼシカの元へ逃げてきたのかも知れないなー、と思ってしまったわけなのです。
「ぼくだってこんなにもミコノのことが好きなのに、ふたりともひどいよ!」と。
ところで、第19話でユノハに語ったミコノの述懐によれば、シュシュは「わたしが仲良い人にはすぐに『シャーッ』って」威嚇するそうです。
もしかすると、案外シュシュもかつてのポロンのように種族を越えた愛情をミコノに対して抱いているのかも知れません。
……だとすると、瞳を潤ませていたのは失恋のため、なのかなぁ。


※それにしても、髪を下ろしたミコノさんは最高にかわいい。


[24-06-27]
文責・てんま