1
船団はウエルトに着き、人々は別れ、そしてエンテとリュナンは再会を果たした。
アシカ号の上、潮風に吹かれながら──
「エンテ」
リュナンが言った。
「いや、メーヴェ」
慌てて言いなおす。
「別に『エンテ』でも良いですよ。リュナンさまの呼び慣れてる方の名で」
苦笑しながらエンテが言った。実際、リュナンから『メーヴェ』と呼ばれるのは何だか妙な気分だ。
「うん、ごめん。しばらくはそうさせて貰うよ。徐々に変えていくからね」
「はい」
強い海風に嬲られる髪を押さえながら、エンテは恋人に微笑んだ。
その手を包むようにしてリュナンの大きな掌が重なった。
「あ」
もう片方の手がエンテの髪を撫でる。とても優しく愛情に満ちた手つきで──
「あの、リュナンさま……?」
何か言いかけたエンテだったが、次の瞬間言葉が途切れる。そして息を弾ませた。リュナンにぎゅっと抱きしめられたからだ。
「ずっとこうしたかったんだ、エンテ」
耳元で囁かれる。エンテは身の裡が熱くなるのを感じた。
「君を残して旅立ってから、ずっと」
「リュナンさま」
「でも、エンテもそうなんだろう?」
言いながらエンテの頤を掴み、くいと顎を持ち上げる。エンテの瞳を覗き込んだ。
「だって、こうしてこっそり付いてきたんだから」
その言葉にエンテは赤くなる。
エンテの顎を持つ指先を伸ばし、リュナンはつつと王女の喉元を撫でた。
「ふぁ……?」
びっくりして声を漏らす。
「かわいいよ、エンテ」
目元だけで笑いながら、リュナンが顔を近づけてきた。エンテの胸が高鳴る。
「……ん…」
王女は恋人のなすがままだった。
……それは彼女も望んだことだから。