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その後、しばらく二人とも黙ったまま空を往く。
けれどそれは居心地の悪い沈黙ではなかった。サーシャに対するある種の拘泥が融解したからだとエンテは理解していた。
(でも、サーシャ様はどうなのかしら?)
エンテはすぐそばにいる少女の内心が知りたくなった。
「あのね、エンテ様」
サーシャが不意に言った。風に紛れて少し聞き取り辛い。
「はい?」
エンテが訊き返すと、サーシャは少しためらってから付け加えた。
「リュナン様は──ホームズもそうなんだけど──私にとってはお兄様みたいな方なの。強くて優しくて……やっぱり、ちょっと憧れていたかも」
「……」
サーシャの言葉が一瞬途切れた。どんな表情をしているのか、エンテは気になった。ペガサスを操るためサーシャは前を向いており、エンテには背中しか見えない。
(肩、震えてるの?)
そんな風にも思ったが、よくわからなかった。もっともエンテの疑念は長続きしなかった。
「“お兄様”をよろしくお願いしますね」
突然サーシャがくるっと振り返ったからだ。
「は、はい。お任せくださいな」
エンテは思わずしゃちほこばって答える。それを見てサーシャが微笑した──