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ペガサスが祭壇に降り立った。
「ありがとう、助かった!」
礼を言いながら少年がペガサスを飛び降りる。
その声に先に祭壇へ辿りついていたリュナンとホームズが振り向いた。
「何でおめーがここにいるんだよ!」
サーシャに向かってホームズが憤慨したように言った。以前は彼の乱暴な口の利き方に心を痛めたサーシャだが、今は彼が彼女の身を案じているのだとわかっている。
「まあ、成り行きで」
王女はへらっとした表情で答えた。
「なっ……!? ここは危険だ」
リュナンが顔色を変えた。
「奴は普通の武器が通じる相手じゃない」
「わかってます……!」
巨大な竜の身に姿を変じたグエンカオスを見ながら、サーシャが言った。
「私はこちらで後方支援の真似事をさせてもらいますから」
「何だ、そりゃ」
ホームズが尋ねる。
「オープスは任せてねってこと」
マインスターを抜きながらサーシャは言った。聖剣リーヴェを手に入れたリュナンから返還されたウエルト王家の宝剣だ。魔獣の群れが徐々に彼らを目指し接近していた。
「竜退治はお願いするから」
ぶんと宝剣を振り、切先でグエンカオス……ガーゼルを指し示した。
「ちッ、しゃーねーか。何しろ俺らはあいつの相手で手一杯だし」
少し離れた場所で不気味に咆哮する巨竜を見上げながら、不承不承といった感じでホームズが言った。
「ホームズ、怪我しないでね」
ガーゼルに向かい駆け出したホームズの背中に向かって、サーシャが声をかけた。
「いい加減、目上には敬称をつけろよなっ」
振り向きもせずホームズが言い返す。
何か言おうとしたサーシャの肩をリュナンがポンと叩いた。
「リュナン様」
「じゃ、僕も行くから。気をつけるんだよ。危なくなったら身を隠すように」
「小さな子供じゃないんですけど」
心配そうな顔をする公子に向かってサーシャは微苦笑した。
「でも、心配してくれてありがとうございます」
「ああ。きっとまた会おう」
リュナンは拳を握り、親指を立てた。サーシャもその真似をする。
フッと微笑むと公子はホームズの元へ走っていった。
「がんばって、二人とも」
祈るように片手を胸元に当てながら、王女は呟いた。
その傍らから遠慮がちな声がかけられる。
「あの」
緑髪の少年が立っていた。何か言おうとしているらしいが、言葉がうまく見つからないようだ。
「えーと」
サーシャも口を開こうとして、少年の名前を知らないことに気づく。
「あなたは……」
「僕はセネト。カナンのセネトだ」
なぜか嬉しそうに少年が名を告げた。サーシャはニコッと微笑を浮かべた。それを見た少年──セネトが少し赤くなる。
「……セネトさんもがんばってください! 生き延びることができたら、一度お喋りしましょうね」
王女は少年を激励した。それは本心からの言葉だった。あんな風に涙を流す男性がどういう人なのか、少なからず興味があった。もちろん、好意の成分が多量に含まれた関心だ。
「ああ。ありがとう……!」
少年は勢いよく頷くと、リュナンたちの後を追った──