ファン小説(TearRingSaga)

3

 地下神殿とはいえ、ペガサスが飛べるほどである。かなり広大な空間だ。
 眼下では数個中隊の暗黒兵やゾーネンブルメたちが集結しつつあり、ウエルト軍とおぼしき集団と小競り合いを始めていた。
(あのまま突っ走っていたら、下にいる連中と剣を交えなければならなかったわけだ)
 セネトは安堵とも苦笑ともとれる表情を見せた。
(まだまだ頭に血が昇っていたらしい──いや、今もそうか?)
 そう思いつき、深呼吸してみる。ゆっくり息を吐いていると、
「怖くないですか?」
 ペガサスを操りながら、前を向いたまま少女が不意に尋ねた。グエンカオスという強大な魔人と対峙することについて訊いているようだ。
「怖いさ。誰かに代わって貰いたいくらいだ」
 セネトは正直なところを告げた。彼を盟主と仰ぐ自由カナン軍の面々の前ではとても口にできない本音だ。ほとんど他人に近い少女相手だからこそポロッと内心を吐露してしまったのだ。
「え……」
 思わず、といった感じで少女が振り返った。予想と違う返事だったのだろう。吃驚した瞳が印象的だった。
(……ウエルト軍の騎士といっていたが、まだ子供のようだ。騎士見習に成り立てといったところか……こんな子供を不安にさせるような返事をしてどうする)
 セネトは心の中で自分の粗忽さに苦笑した。
「だけど、聖剣カナンを扱えるのは僕だけだから……自分の使命は果たさないとね」
 そう言って安心させるようにニッと微笑む。その笑顔を見て少女も嬉しそうに口元を緩めた。
「がんばってくださいね……!」
 それだけ言うと、再び前を向いてペガサスを御すことに専念した。
(がんばれ、か)
 少女の背中を見ながら、セネトは心の中で復唱した。
 何でもないごく当たり前の激励。だけど、この少女が口にするとこんなにも胸がときめくのはなぜだろう。

> こんなにも胸がときめくのはなぜだろう。
 サーシャの「カリスマ」スキル発動中(笑)。
 次のページからはサーシャ視点で。
 時間は少し戻ります。

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