ファン小説(FE聖戦・親世代)

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「豆が無くなりましたね」
 空の枡を覗きながらフィンが言った。
「そうですね。もうお仕舞いです」
 ラケシスが頷く。
「これ、どうしましょう」
 ふたりで盛大に撒き散らした煎り豆を見ながらフィンはため息をついた。
「兄の話では撒いた煎り豆を食べることでその年の災厄を免れるとか」
「うーん、食べるのですか……地面に落ちた物を」
 フィンが困ったように言う。
「ちょっと抵抗感がありますよね」
 ラケシスは同意した。
「ですが、そのまま捨てるのも少し勿体無い気がしませんか?」
 王女様に『勿体無い』という感覚があるのかどうか疑わしく思いながらも、フィンは言ってみた。
 ラケシスは小首を傾げてしばし考えていたようだが、
「そうね……では、お馬さんに差し上げることにしましょう」
「馬にですか。煎った豆を食べるかな?」
 フィンは即座に抱いた疑問を口に出してみる。ラケシスも知らないようで、
「試してみないと分かりません」
 という返事だった。


 その後、豆を拾い集めようという話になった。
「では侍女を呼びましょう」
 ラケシスが言うとフィンは止めた。
「いえ、散らかしたのは我々ですから、私達で片付けましょう」
 少年はそういうしつけをされて育ったのだ。
 そのセリフを聞いたラケシスがまじまじとフィンの顔を見つめる。
(怒ったかな?)
 とフィンはこっそり考えた。しかしそれは杞憂だった。
 王女は笑顔を見せた。大輪の花のようだった。そして言った。
「そうですね。迂闊にも思い至りませんでした。兄にも『自分でできることはなるべく他人に頼るな』と言われておりますのに。フィン殿のおかげで思い出しました」
 そして「ありがとう」と言われ、フィンはかえって恐縮してしまう。
ほうき塵取ちりとりを借りてきますね」
 フィンが言うと、
「それでは私はライブの杖を持ってきましょう」
 ラケシスもそう告げた。
「ライブ?」
「やっぱり気になりますもの。私のつけた、フィン殿のお顔の赤く腫れた豆の痕」

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