ファン小説(FE聖戦・親世代)

3

 フィンは決して能弁とはいえない。訥々と喋るタイプだ。
 けれど、それが却ってある種の人々には受けるらしい。
 今も彼は酒場の女将(おかみ)と話し込んでいた。ラケシスの方はといえば、専ら彼らの会話の聞き役に回っていた。
 このような時は市井の人々の考えていることが分かる。王宮の中にこもっていては知ることができない話ばかりで、とても興味深かった。
「それにしても女の騎士様とは珍しいね」
 女将がラケシスに視線を移し、唐突に言い出した。
「そ、そうかしら」
 不意に話を振られて、それまで黙っていたラケシスは吃驚し、思わずどもってしまった。
「でもシレジアでは女性がペガサスに乗って戦うそうですが……」
 フィンが天馬騎士団の例を持ち出した。
「ああ、そうだったね。オーガヒル海賊の頭目もブリギッドとかいう女海賊らしいし……いよいよ女の時代が到来したのかねえ」
 と感慨深そうに女将は言った。
「先の戦いでノディオン軍を率いたのも、ノディオンの王女様……ラケシス姫だというしね」
 今度は自分の名前を持ち出され、ラケシスは再び目を丸くした。ふと見ると、フィンが内心を窺わせない笑顔を浮かべていた。
「あんたたち、シグルド公子様の軍隊の人だろう? ラケシス姫と会ったことはあるのかい? とても優雅で美しい姫様だと聞いていたけれど、自ら戦場に姿を現したというんだ、実は武芸百般に通じたとても勇猛なひとだったんだろうねえ」
 感嘆したような声で言われ、ラケシスは内心で赤面した。あの時の彼女は勇敢な戦士というよりも、ちょろちょろと後方を駆け回ってライブの杖を振っていただけなのだ。
「……まあ、私達のような下っ端騎士では、王女殿下に親しく言葉をかけていただくような機会もほとんどありませんが……遠くからご尊顔を拝した印象を申し上げるなら、とても綺麗な姫君ではありましたよ」
 フィンが目元に微笑をたたえながらそんなことを言った。
(結構、言うときは言うひとなのね……)
 『会ったこともない』などと、しゃあしゃあと適当な言葉を並べるフィンのことを見つめながら、ラケシスは彼の新たな一面を発見したように感じていた。『とても綺麗な姫君』という評価を聞いた時、思わず口元をほころばせたのは内緒だ。彼女に言い寄る国内の貴公子たちから何度も似たような賛辞を聞かされた記憶があるが、同じ内容でもフィンの声で告げられると、どうしてこうも嬉しいのだろう。

[16-04-02]

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