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その村の宿屋は酒場と兼業だった。
中に入ったラケシスとフィンは、早速ミルクと幾つかの料理を注文した。
待っている間にも、料理油のじゅうじゅうと弾ける音や肉の焼ける匂いが漂ってきて、空腹のかれらの食欲を強く刺激した。
「フィン、涎(よだれ)を垂らさないでね」
クスクスと笑いながら、ラケシスがフィンの顔を見つめた。彼らは小さなテーブルを挟んで向かい合って座っている。
「えっ」
王女に指摘されて青髪の騎士は慌てて口元を拭った。
「……って、別に何ともなってませんが」
からかわれたと気づき、フィンは苦笑した。すると、ラケシスが咎(とが)めるような表情を浮かべた。
「違うでしょう。私達は軍の同僚、戦友という設定。敬語を使うなんておかしいわ」
と声をひそめて注意する。さっき二人で話していた『いつもの』とはこのことだ。同年輩の彼らなのに、フィンが敬語を使うのは、(王女と護衛の騎士という)二人の事情を知らない者が聞けば奇妙に思うだろう。そのことを憂慮した上での彼らの間だけの約束だった。
「そ、そうでしたね、申し訳ありません」
フィンが小さな声で謝った。言った後で(しまった)という表情を浮かべる。
「もう、言ったそばからすぐそれなの?」
ラケシスが呆れたように言った。
「面目ない」
「でも……まあ、いかにも融通のきかない貴方らしいわね」
皮肉なのか、それともそんな彼のことを微笑ましく思っているのかは分からないが、ラケシスはそう言って嘆息してみせた。