ファン小説(FE聖戦・親世代)

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by てんま

1

 アンフォニー城の南には樹海が広がっている。そこを抜けた先の丘陵地帯には開拓村が点在する。
 先日のアグストリア動乱の折、盗賊団に襲われたこれらの村々も、いまでは平穏を取り戻していた。


 二頭の馬がゆっくりと街道を進んでいる。街道といってもこの辺りのそれはまだまだ未整備で、人の往来もあまりない。
 馬の上には人影が見える。
 豪奢な長いブロンドの髪の美しい少女と、晴れた青空のような色の髪をした生真面目そうな少年。少女の身につけた装身具は、彼女が富裕な家柄の令嬢であることを窺わせた。
 少女は馬上で朗らかに笑い、少年はしゃちほこばった態度で彼女に受け答えしている。
 その様子から、少年は少女の従者のようにも見えた。
 けれど、少年の貌(かお)をつぶさに観察すれば、その骨相などでこの国の人間でないことがわかる。
 彼は単なる護身用という以上の立派な武器を携えていた。
 おそらく外国人の騎士だろう(あるいはまだ従士かもしれない)。
 それゆえ最近の政情に少しでも関心のある者なら、彼らがシアルフィ公爵家を中心としたグランベル軍に属するのではないか、と推量するかもしれない。
 その推量は一部は当たっていて、一部は外れている。
 少年はシアルフィ公爵家の縁戚であるレンスター王家に仕える騎士であり、少女はアグストリア南東部を支配するノディオン王家の姫君だった。
 フィンとラケシスである。
 ラケシスの乗馬の訓練にフィンが付き合う形で、彼らはこの地まで遠乗りしてきたのだ。
 もちろん、この時代の貴族階級の者に共通する嗜(たしな)み程度の馬術はラケシスも会得している。
 しかし彼女は『マスター』の称号獲得を目指していた。そのためには、戦場でも自らの脚同然に馬を巧みに御すことが求められるのだ。


「少し喉が乾きましたね」
 フィンが言った。何しろ彼らは朝からずっと行動しづめだった。その間、飲まず食わずである。『少し』どころではない気もするが、フィンとラケシスは二人ともストイックな性格で、何事も我慢してしまいがちなところがあった。
 ラケシスの同意するような表情を確認して、
「あちらに村が見えます。カフェ……のような場所は開拓村ですし、さすがに無いでしょうが、酒場か何処かで軽い食事を摂りませんか」
 とフィンは提案した。
「はい」
 とラケシスがうなずく。ちょっとだけ嬉しそうな様子だった。(王女という身分を考えれば当然だが)以前は宮廷料理しか口にしたことの無かった彼女も、最近はフィンに仕込まれたせいで、市井の食べ物にも抵抗感が無くなっている。
(ううん、毒見役の検分を待たずに、作り立ての暖かいお料理をいただけるのですもの……お城の料理人には申し訳ないけれど、案外こちらのほうが好みかもしれないわ……)
 ラケシスはひとりごちた。
「どうかなさいましたか、ラケシス王女」
 フィンが彼女の呟きを聞きとがめた。
「いいえ、フィン殿が気にするようなことではないの」
 頭の中の考えを独り言として口にしていたのね、とラケシスは照れくさそうに微笑んだ。
「それよりも、村に入るのでしょう? 今からはいつもの通りにしないといけないわ」
 とフィンの注意を喚起する。
「ああ、『いつもの』ですね。あのようなこと、私はいっこうに慣れないのですが……」
 フィンが苦笑するように言った。苦笑というよりも困惑している様相だった。
「ダメよ、いい加減に慣れてくれないと」
 フィンの困惑をひそかに愉しみながらラケシスは言った。

> この時代の貴族階級の者に共通する嗜(たしな)み程度の馬術
 中世ヨーロッパでは騎士になるための修行の一環として、馬術訓練がありました。そこでこのように書いたのですが……
 でも、例えば騎士全盛時代のフランス王である尊厳王・フィリップ2世(Philippe Auguste)は、馬にはろくに乗れませんでした。
 ですから、貴族だからといって馬に乗れるかどうかは、実は定かではないような気がします。
 それに、そもそも騎士と貴族はイコールの概念ではありませんしね(汗)。

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