ファン小説(FE聖戦・親世代)

3

 アグスティから南下してマッキリーを抜け、ノディオンへ向かう。
 東方には大森林地帯、そして眼前には沃野が広がる。
 街道は十分に整備されている。さすがグランベルに次ぐ大国だ。
 御者席の上で馬車を牽引する四頭の馬を操りながら、フィンは感心して周囲の風物に見入っていた。先の内乱のときは景観を楽しむ余裕などなかったからだ。
「ね、フィン殿」
 声がした。ラケシス王女だ。彼をこの馬車の御者に仕立てた張本人。
「何で……うわっ!?」
 何でしょうと言いかけて、フィンは驚愕の声を漏らした。
 すぐ後ろの小窓からにゅぅっと少女の顔が飛び出し、彼のことを見つめていた。
「あら、驚かせちゃいました? お化けでも見たような声でしたけど」
 仰天したフィンの表情が面白かったのか、ラケシスはころころ笑い出した。
「まあね。女性の生首が肩口に浮いてるなんて、予想もしてませんでしたから」
 フィンが早鐘のように鳴る胸を意識しながら答えた。
「何とも嫌な言われようだわ……」
 ラケシスは「生首」という表現にちょっぴり憮然とした。けれど、すぐに気を取り直して、
「でも、フィン殿はさすがね。びっくりしても馬車はちゃんと動かしているんですもの」
「……ラケシス王女はもしかして、私を驚かせることでこの馬車を暴走させてみたかったのですか?」
 フィンが疑わしそうに尋ねた。青髪の騎士の声には半ば本気の成分が含まれていて、ラケシスは苦笑した。
「とんでもない。どんな時でも動じないフィン殿の腕前を信じてます」
 ラケシスはフィンに向かい片目をつむってみせた。フィンは少し赤くなった。
 そのことに気づき、彼は慌てて表情を取り繕った。わざとらしく咳払いをして、
「ところでラケシス王女。御用があったのではありませんか?」
 と問うた。ラケシスは思い出したように両手をポンと打ち合わせ、
「そうでした。実はですね──」
 にこにこしながらフィンにあることを提案した。

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