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グラーニェ王妃の所望ということもあり、フィンの借り出しはうまくいった。
その後、ノディオンまでの行程をどのように移動するかの計画をフィンと一緒に考えた。
「フィン殿とふたりだけで──馬に乗って、轡を並べてノディオンに入城したいです」
ラケシスは希望を述べた。
「いや、それは……」
フィンは渋い顔になる。
「たとえ自国内とはいえ、王女殿下の移動に護衛が私だけというのは現実的ではないでしょう」
フィンにたしなめられてしまった。けれどこの反応は予想済み。次案が本命だ。
「では、こういうのはどうかしら? フィン殿の他に護衛の方々をお願いするとして、あなたと私は一緒の馬車で移動するの」
これならゆったり馬車に揺られつつ二人で膝をつきあわせてお話できる。フィンの表情を窺いながら(我ながら妙案!)とラケシスはちょっぴり得意になった。
「うーん」
フィンは首をひねった。そして、
「王女殿下と一緒の馬車で移動するほど、私は重要人物ではありませんよ」
これもフィンに断られた。
「じゃあ、フィン殿はどうしたいの?」
顔には出さなかったが、ラケシスは泣きたい気分で尋ねた。もしかして自分は彼に迷惑がられている……? そう思いついてしまったのだ。もちろん、そうではなくフィンの生真面目な部分がおもてに出ているのだということは判っていたけれど。でも、ラケシスは彼と面白おかしく旅をしてみたかったのだ。
「そうですね──」
王女の内心の葛藤も知らず、フィンは自分の考えを述べた。
「クロスナイツの一個中隊くらいは応援にほしいですね」
とんでもない。それでは何だか研修旅行みたいになってしまう。ただでさえ兄の影響を強く受けたクロスナイツの面々は融通の利かないひとが多いというのに。
そんな意味のことを言うと、フィンは肩をすくめた。
「遊びに行くわけじゃないんですから」
「誕生パーティって、半ば以上遊びの要素で占められてると思うのですけど」
即座にラケシスは反駁した。
フィンは一瞬目をぱちくりさせた後、不意に笑い出した。
「そうでした。姫君の護衛ということで、私には今回のノディオン行きは任務の側面しか見えてなかった。でも、ラケシス王女にとっては、ご家族の団欒ということでしたね」
「では、気詰まりなクロスナイツの護衛の件は無しということで。あの方たち、とても過保護なの」
ラケシスが言うと、フィンは首を振った。
「『過保護』とおっしゃいますが──それだけラケシス王女は大事なひとだということですよ。王女はご自分のことをよくわかってらっしゃらないようだ」
フィンがお説教調で言った。
(『大事なひと』……)
フィンが色っぽい意味でそのことばを口にしたわけではないと判ってはいるけれど──彼の声でそんな風に自分のことを言われると、やはりとても嬉しい。ラケシスの機嫌はあっさりなおってしまった。
結局、フィンの他にも護衛隊を伴うこと、フィンがラケシスを乗せた馬車の御者を務めることという条件で二人は妥協した。