ファン小説(FE聖戦・親世代)
姫君の事情

1

 ゼイゼイと肩で息をしながら、フィンは草の上に腰を下ろした。胡座をかいたまま、激しく空気を貪る。傍らには槍が落ちていた。
「ご苦労さまー」
 ふわりとフィンの頭にタオルがかけられた。一瞬、視界が閉ざされる。日なたのような暖かく清潔な匂いがした。
「おそれいります」
 顔にかかったタオルを手に取り、フィンが礼を言った。彼の目の前では金髪の美姫が微笑んでいた。
「どういたしまして」
 汗を拭うフィンを見ながらラケシスが返事する。
「では、そのままそこを動かないでくださいな。ライブをかけて差し上げますね」
 両手で杖を抱えながらフィンに言った。
「はい」
 フィンはやや神妙な面持ちだ。
 ラケシスが杖を振ると白銀の霊光が宙に出現した。そのままゆっくり霊光がフィンの全身を覆ってゆく。
「どうですか?」
 やや間を置いてラケシスが尋ねた。
「大分楽になりました。ありがとうございます」
 小さく息を吐くと、穏やかな顔つきでフィンが言った。消耗した体力が回復したのだ。
「お礼を言うなら、ライブの杖を考えた昔の偉い司祭様におっしゃってくださいね」
 冗談を言いながらラケシスもしゃがんだ。さりげなくフィンの斜め前に位置どる。彼の顔をよく見ることが場所だ。
「何十年か経って──あの世でお会いできたなら、そうすることにしましょう」
 そう言いながら、フィンは真剣な表情でラケシスの顔をじっと見つめた。
 想いを寄せる相手の瞳に浮かぶ自分の姿に気がついて、ラケシスの胸はトクンと音を立て始めた。やや上擦った調子で、
「……な、何でしょう?」
 真摯な視線を投げかけてくる青髪の騎士に訊いてしまう。フィンはやや躊躇いながら、
「……ラケシス王女の要望で始めた朝の鍛錬のはずなのに、いつの間にか私一人で槍を振ってるな、と思いまして」
 フィンの返事にラケシスが拍子抜けした表情になる。
「そんなことですか」
 思わず本音が漏れた。もっと別のセリフを期待していた。
「『そんなこと』ではないでしょう、ラケシス王女」
 フィンが膝だけで移動してにじり寄った。
「三日坊主というのは良くないですよ。中途半端で物事を投げ出す癖がついたら、改めるのは大変だと思います」
「ご、ごめんなさい……」
 フィンの迫力にラケシスは思わず謝った。ちょっぴり悄然となる。けれど、心のどこかで嬉しさも感じていた。フィンが本気で言ってくれてる──自分のことを気にかけてくれていると思えたからだ。
 ささやかな幸福感に酔っていると、いきなりフィンが手を伸ばしてきた。
 不器用な手つきでラケシスの頭を撫でる。
「フィ、フィン殿……?」
 今度こそビックリして、王女は真っ赤になってしまった。
「すみません。言いすぎました」
 耳元で囁かれ、ラケシスはドギマギした。
「言い方がきつかったですね」
 瞳を潤ませて黙りこんでしまったのを、どうやらフィンは誤解したらしい。
「私は女性と接する機会が少ないもので、どうも適切な言い回しができなくて」
 と頭を下げる。
(ふうん、そうなの……)
 ラケシスはフィンの手を頭に載せられながら、少年の言葉を吟味した。
(でも、これって……)
 不意にラケシスは気がついた。
(これって、泣いてる小さな子の頭をナデナデしているのと同じ感覚でいるような──特別な意味は無いみたい)
 少しだけがっかりする。だけど、いかにもこの騎士見習の少年らしいとも思うのだった。

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