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ラケシス王女の『お願い』というのは、僕に槍の使い方を指南して欲しいということだった。
『兄上も家臣の皆も、私には槍術など不要だと言うのです』
『それはそうでしょう。何しろ、お姫様ですからねぇ』
僕が家臣の方々の意見に同意すると、王女は不満そうに、
『それはそうかもしれませんけど……いくら深窓の姫君でも……ううん、お姫サマだからこそ、護身術を嗜んでおくべきだと思いませんか?』
一国の要人である以上、王女が不埒者に狙われる可能性は確かに高い。だからラケシス王女の言葉は説得的にも思えたが、僕はすぐに別のことに気がついた。
『ラケシス王女は剣を使えるのではありませんでしたか?』
僕が指摘すると、すぐさま王女は言い返した。
『私は槍も使えるようになりたいのです』
『……』
僕は内心で深くため息をついたが、もちろん面には出さなかった。
『では、キュアン様に師事なさいませんか? わが主君は何といっても地槍ゲイボルグの継承者でいらっしゃいます。私に槍術の手ほどきをして下さったのも、実はキュアン様なんです。その経験から申し上げるなら、あの方は師匠としても最高だと思いますよ。お願いして差し上げましょうか』
キュアン様に押しつけよう。僕はちょっぴり不逞なことを考えながら、王女にわが主君への師事を奨めた。
『……フィン殿が』
王女は遠慮がちに、けれどきっぱりと言った。
『フィン殿がいいです』
何と我侭な……僕は絶句した。
そんな僕の視線をどう取ったのか、王女は言い訳するように、
『だって……私、初心者ですもの。キュアン様はフィン殿のお師匠様でもあるのでしょう? いきなり大先生に教えを乞うなんて大それたこと……とてもできないわ』
『そういうものですかねぇ?』
僕は思わず疑わしそうな声を出してしまった。
こうも僕に執着するというのは、何か裏があるからでは? そう思いながら、じっと王女を凝視する。
僕の視線と王女のそれが絡み合った。
すると、王女の頬がほんのり朱色に染まっていった。
僕がなおも見つめると、王女はふっと目を逸らし、俯いてしまった。
その様子が何とも蠱惑的で、僕も……僕の頬も上気していくのがわかった──