2
数日後。
「お、そこにいるのはフィン先生じゃないか」
回廊を歩いていると、レヴィンさんが大声で僕を呼んだ。
「や、やめてくださいよ。そんな人前で……」
僕は抗議した。顔の赤らんでくるのが自分でもわかった。
「半人前の身で『師匠』呼ばわりされてるんですよ。この何とも言えない気分がレヴィンさんにおわかりですか?」
「いや、全然」
吟遊詩人のお兄さんは能天気な表情で言った。
「おれには逆に、お前さんがどうしてそんなに恐縮しているのかが分からん……王族相手に威張り散らす好機じゃないか。何しろ弟子は師に絶対服従なんだからな」
レヴィンさんは愉快そうに笑った。そして『威張り散らす』べきことの具体的内容について色々と教えてくれた。レヴィンさんは本当に楽しそうで、
(何事であれ、この人を師匠と仰ぐ羽目にだけは絶対陥りたくないな)
と僕はこっそり思った。
「私は横暴な師匠にはなれそうもないです」
「そういうもんかねえ?」
疑わしそうにレヴィンさんがジロジロと僕の顔を眺めた。その好奇心にみちた視線を浴びながら、僕は王女との会話を脳裏に浮かべた──