ファン小説(FE聖戦・親世代)

王女と騎士とティータイム

by てんま

騎士の当惑

1

「ふぅん……フィン殿は槍を使うのですか……」
 意味ありげな目つきでラケシス王女が言い出した。僕が“勇者の槍”を手入れしていた時のことだ。
 何を今更とは思ったものの(「今更」というのは、僕はもう結構長い期間、王女の護衛を勤めていて、その間、一度ならず槍を振るう機会があったからだ)、何といっても上つ方の姫君である。僕のような下々の者(王族以外は皆『下々』だ)のことなど、あまり気にしてないのかも知れない。だったら記憶に無いのも当然だ。
「まぁ、私もランスリッターの一員ですから……見習いですけど」
 と、僕は返事した。一応、無難な物言いだと思う。
「そういえばそうでした。ランスリッターの方々は槍使いであることを殊のほか誇りに思っている、と以前兄上に聞かされたことがあるのに……すっかり忘れちゃってました」
 王女が照れくさそうに微笑んだ。
 「ちゃった」か……こう言うのも何だが、王族の方がこのような砕けた喋り方をするのはどうかと思う。兄君のエルトシャン王はあんなに威厳がおありなのに……
「……フィン殿、何だかケシカラヌことを考えているみたい。おっしゃりたいことがあるなら、ちゃんと口に出してくださいな」
 非難がましい思いが僕の瞳に浮かんだのだろうか、王女が文句を言った。
「ほう。そういう風に仰るということは、ラケシス様には何か後ろ暗いことでもおありなのですか? 何もやましいことが無いのなら、誰かが自分に対してけしからぬ想像を巡らせているなんて思いつきませんよね?」
 僕は王女に言い返した。僕としては高貴な姫君に対してこのような不躾な言葉遣いをするのは気が引けるのだけど……ラケシス王女ご自身が「肩肘の張らない」喋り方を望まれるのだから仕方ない。
「……わかっちゃっいました? 『後ろ暗い』ことは考えてませんけれど、フィン殿に言いたくて、でも言えなかったことがあるの」
 『言えなかった』こととやらを口にするきっかけを得たと考えたのだろう、とても嬉しそうに王女は笑った。
(う……)
 不覚にもその笑顔に引きこまれそうになる。王女の言葉を何でもかなえてあげたくなる。きっとノディオンの人達も僕と同じなのだろうな……
「いえ……わかったも何も、ラケシス王女は私の発言に乗っかっただけのように思えるのですが」
 王女の笑顔を見ているうちに蕩けそうな気分になるのを堪えながら、僕が澄まし顔を作って指摘すると、
「ええ、実はそうなのです」
 王女はぐいっと身を乗り出し、僕に近づいた。僕の顎の下あたりから見上げながら、
「あのね、お願いがあるの」
 と言い出された。

補注
 『聖戦』でも『776』でもフィンの一人称は「私」です。セリスやリーフは「私」「ぼく」と二種類の一人称を使っていますが、フィンの場合は「私」以外の事例がありません。
 とはいえ、十代前半とおぼしき少年が心の中でも「私」を使っているというのも……これは語感の問題で、あくまで私の感想なのですが……何だか妙な気がします。
 そこでこのお話では、声に出して他人と話すときのフィンの一人称は「私」、自分の心の中だけで語るときは「僕」という風にしてみました。

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