ファン小説(FE聖戦・親世代)

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 先月の慰問日──
(『来てはいけない』ってエルト兄さまのお手紙に書かれていたけれど……でも、どうしても会いたいもの……!)
 ラケシスは兄の意向に逆らってバーハラまで赴こうと考えた。天性のカリスマの持主でる彼女は、自分付きの女官や騎士達を既に味方に引き込んでいる。王宮を抜け出すことくらい容易いものだった。
 小人数の護衛を従えてバーハラの郊外にある士官学校に向かった。
「あなたたちは少し離れた所で待っていてくださいね」
 士官学校の門が見える所まで来ると、ラケシスは護衛達にそう命じた。
「ぞろぞろと大勢で押しかけて、兄上に迷惑をおかけしたらいけませんから」
 そして生徒の関係者である旨の証明書を提示し、一人で士官学校の門をくぐり抜ける。
(あれがエルト兄さまの学び舎なのね……!)
 初めて見る士官学校の様子にラケシスは胸躍らせた。壮麗な建築物ばかりで、士官学校という名称の響きからくる無骨さはあまり伝わってこない。
(……でも、兄さまのおいでになる寄宿舎はどこなのかしら)
 きょろきょろ辺りを見まわしながら、
(受付でお聞きしておけば良かったわ……)
 とラケシスは自分の不明を恥じた。


(拒絶されたらどうしよう……)
 構内を徘徊しているうちにラケシスは怖くなり、そのまま足が動かなくなった。
(だって、エルト兄さまは理由もなしに『来るな』なんておっしゃる方ではないし……きっと、殿方の修練の場は女子供禁制、と考えておいでなのだわ……)
(帰ろうかしら……)
(でも……)
(もしかしたら、偶然に寄宿舎から出てきてくださるかもしれないし……)
 寄宿舎は見つけたが、中に入る勇気は無く……結局夕刻までその前で立ち尽くすばかりだった。
 慰問帰りの人々がそんな彼女をジロジロと眺めていった。
 けれどついにエルトシャンは姿を現さなかった。
(兄さま……)


 泣きたい気分で帰ろうとする彼女に声をかけたのが、エスリンだった。
 面会時間が終わり、時間ぎりぎりまで粘っていた彼女も今から帰るところだったのだ。
「あなた、朝もここにいたわね。お目当ての人には会えたかな? 今から帰るところでしょう。一緒に帰らない? 夜はこの辺、物騒だというし……あ、あの……ど、どうしたの?」
 突然涙をポロポロとこぼしはじめたラケシスを見て、エスリンはうろたえてしまった……

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