ファン小説(FE聖戦・親世代)

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「呆れましたよ! エルトシャン様がそんな見栄っぱりとは知らなかったです」
 エスリンが思い出して憤慨する。
「部屋の中を見せたくなくて、一年以上も面会拒絶なんて!」
「長期休暇の時は帰っていたよ」
 エルトシャンが口答えするが、
「それは当たり前のことです」
 と、エスリンはにべも無い。
「その他の時でも会いたいと思うのが家族でしょ。一ヶ月に一遍しか会えないんですよ?」
「……むぅ……」
 返事に窮したエルトシャンがちらりとラケシスの顔を見ると、それに気づいた妹姫が穏やかに微笑した。
 その表情が何とも健気(けなげ)で、エルトシャンは胸に軽い痛みを覚えた。
「ところでだ」
 シグルドが唐突に口を開いた。
「エスリンたちのその格好は何だい?」
 二人はお揃いのエプロンドレスを着ていた。
「それがいわゆるメイド服というヤツかな? キュアンの腐れ趣味だろうか」
 のほほんとしたシグルドの表情が、次の瞬間歪んだ。
「ッ──!」
 後頭部を押さえてうめく。
「誰の何が腐ってるって?」
「あ、キュアン」
 涙目でシグルドが呟く。
「君は寝てたんじゃ……」
「寝てたのはシグルドたち。私は早朝トレーニングから戻ってきたところ。大体、あれしきの酒量で酩酊するなんて弱すぎるぞ。部屋までめちゃめちゃにしてしまうし。たかだかワインを二〇本程度あけたくらいじゃないか」
「このうわばみめ」
 彼らの会話を聞いていたエスリンの眉がキリキリとつりあがる。
「むっ、兄上たち! またお酒を飲んだの?! 子供の癖にダメじゃない!」
「男には付き合いがあるんだよ」とシグルド。
「ワインなんて水だ」とキュアン。
「兄上、ルールはちゃんと守らないと! ……それにキュアン様、まだ酔ってるの?」


「エルト兄さま、これは洗えばよろしいんですか?」
「う、うん……」
 シグルドたちの諍(いさか)いを尻目に、ノディオン家の兄妹は部屋の片付けを始めていた。
 ラケシスはいそいそと兄の衣服をたたんだり、洗濯物を集めたりしている。
 その横で、もそもそとエルトシャンが書物を本棚に戻している。
「あっ、いけない」
  そう言うと、エスリンはゴミの山──いや、シグルドの寝床、というべきか──へとおもむろに向かう。
「わたしたち、今日は兄上たちのお部屋を掃除しようねって言っていたの。兄上たち、だらしないから。だからこんな格好をしてるのよ。……キュアン様、嬉しい?」
 くるりと振り返ってエスリンが問う。キュアンは少々うろたえながら、
「あ、ああ……とても可愛いと思うよ」
「えへへー」
 エスリンが照れながら微笑む。
「さ、早く片付けてみんなで遊びに行きましょ。キュアン様が外出許可をとってくださったんだから」
 シグルドの私物とゴミを分別しながらエスリンが告げる。
「お前、いつの間に?」
 エルトシャンが訝しんだ。
「三週間ほど前、エスリン嬢から手紙をもらった。で、君がラケシス姫に会いたがらないというから、『それなら連れ出してしまおう』と考えたのだ」
「そうだったのか……」とエルトシャンが呟く。
 (キュアン様って頼りになるもの)という目つきでエスリンがレンスターの王子を見た。どこか誇らしげだ。
「私は何も知らなかった」とシグルドが文句を言った。
「兄上ってこういうことでは頼りにならないし」と即座にエスリン。
「……」
 図星なのでシグルドはそのまま黙ってしまう。
「寮長の許可を取るのは大変だったんだぞ。シレジア産の火酒を一ケースほど費やした」
 キュアンが笑いながら言う。(いや、それって笑い事ではないのでは)と思った者もいたが、口を閉ざして本棚の整理に専念していた。
「だから今日は君たちの奢(おご)りだぞ、エルトにシグルド」
「どうして私まで」
 シグルドの抗議に、
「待望の美人と外出できるんだから、文句言うな」とキュアン。
「兄上って、やっぱりまだ美人に弱いの?」とエスリン。
「まぁ、エルト兄さまのお手紙通りの方なのですね?」とラケシス。それは思わず呟いた台詞だったようで、ラケシスはハッとして口元をおさえシグルドの顔を見やった。その視線を受けて、
「……エルト、お前、何を書いた?」とシグルドが親友を睨む。もっともその口元には苦笑が浮かんでいた。
「ふふっ、わたしはラケシスから聞いたわ。それはもう兄上の人物像を把握してありました」
 エスリンが得意げに言った。
「だらしなくて美人に弱い?」
 キュアンが嬉しそうに訊く。
「誰の話だ、キュアン?」とシグルド。
「『美人に弱い』だけじゃないです。ね、ラケシス」とエスリンが暴露する。
「ほう、どんな内容か聞いてみたい気もするな」
 と少し凄みのある笑顔でエルトシャンを見ながらシグルドは言った。
「ご、ご本人の前ではちょっと……」とラケシス。
「そういうことならますます聞きたいな、エルトの奴が何を書いたか」
 すっかり手の止まってしまった彼らの横で、エルトシャンが一人もくもくと働いていた──

[13-03-17]

 1800HITリクエストのお話でした。
 今回のお話は以下の会話が念頭にあります。
エスリン 「兄上…! 私が口うるさくなったのは兄上や父上のせいです。二人ともだらしないから…」
シグルド 「はは、そうかも知れないな」
(『聖戦』序章・聖騎士誕生)

シグルド 「ディアドラ…美しい人ですね…」
長老 「ほぉー、あなたほどの方でも美人には弱いと見える。もしや、ひとめぼれというやつですかな」
シグルド 「長老、からかわないでください。しかし本当に美しい人だった。できればもう一度会いたい」
(『聖戦』1章・精霊の森の少女)
 引き続き子世代編をどうぞ。

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