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(目つきの悪いヤツだな)
というのが、シグルドのキュアンに対する第一印象だった。
「エスリン、彼はいったい誰だろう。こどもなのに戦場に出ていて、しかも高価そうな装備を身につけている。それなりの貴族の子弟だと思うのだけど」
傍らで談笑していた妹に問い掛けてみる。自分と違い、妹は各国の有力貴族の顔をよく把握しているのだ。
「……兄上、あれは『睨んでいる』と表現した方がいいのでは?」
シグルドの視線の先にいる少年を一瞥して、エスリンはそう答えた。
「『睨む』? 私は何か不興を買うようなことをしただろうか。彼とは初対面だし、まだ話もしていないのに」
「そのことが気に入らないのかも」
「何で?」
「わたしの記憶違いでないなら、あの方はキュアン殿下だと思います。レンスターの王太子の」
「……ああ、私が挨拶に伺候しないので、むくれているというわけか!」
シグルドが納得してポンと両手を打ち合わせる。
「確かにこちらが身分も下だし、挨拶に伺わないのは非礼に値するな」
うんうんと頷きながらシグルドが言う。
(その点は微妙よね。こちらが援軍に来てあげてるのだし、向こうからお礼に来るのがスジのような気もする。ま、兄上が気にしてないのだから、わたしが口出しすることではないけれど)
エスリンが口の中で呟く。
「じゃ、エスリン。キュ……えーと、キュアン殿下にご挨拶してこようじゃないか。年も同じくらいだし、仲良くなれたらいいな」
シグルドは妹を促してキュアンの元へと向かった。