(え……?)
自分の腕の中で頬を染め俯いているエンテに気づき、リュナンは当惑した。
否、気づいたのではない。今ごろようやく本格的に覚醒したのだ、午睡で寝ぼけた頭が。正気に戻った、ともいう。
(ど、ど、どうしよう)
自分の体に密着するエンテの暖かい体温を感じながら、一瞬、恐慌に陥った。王女の柔かな肢体を強く意識してしまう。
先刻までの振舞いが半ば夢の中ゆえの大胆さだなんて言い訳、到底通用するはずもない。
かと言って、このまま演じきる自信も無かった。王女の──そして自分の胸の鼓動ばかりが感じられる。
「……リュナンさま……?」
リュナンに持たれかかり、その胸に頭を預けていたエンテが不思議そうに顔を上げた。リュナンが急に黙りこんでしまったからだ。
訝しむような視線を公子に向ける。
「えーとね、メーヴェ」
リュナンは咳払いした。
「その、やっぱり、神殿でこういう振舞いはよくないよね」
頬に灼熱感を覚えながら、公子は王女に言った。
「……!」
そのセリフを聞いたエンテの肩がピクリと揺れた。王女も我に返ったようだ。
「そ、そうですね」
慌ててリュナンの胸元から離れる。
首筋まで赤くなりながら、二人は顔を見合わせた。
<FIN.>
そうそう、個人的に「メーヴェ」より「エンテ」の方が好みの音の響きなので、地の文では「エンテ」を使いました。