ファン小説(TearRingSaga)

ペガサスの少女

作)てんま

セネトの場合

1

 長く暗い回廊を抜けた。
 しかし、すぐにセネトたちは落胆してしまう。
 強固な鉄格子によって出口が閉ざされていたからだ。
 ある種の魔力で封印が施されているらしい。剣で斬りつけても、数人で体当たりしてもびくともしなかった。
 祭壇ではグエンカオスが巫女たちに未知の術を施している。邪神への供儀だ。
「なぜ、こんな鉄格子を破れない!」
 焦燥に駆られセネトが叫んだ。周囲の者たちはと胸を突かれたように王子を見た。こんなに憔悴した彼の顔を見ることも、狼狽しきった声を聞くことも初めてだった。
「開けっ! 頼む、開いてくれ!」
 剣を振るい力任せに何度も鉄格子を叩く。甲高い金属音が鳴り、火花が散った。
 しかし、彼らの労力をあざ笑うように格子には傷一つついていない。
 じりじりと時間だけが過ぎ去っていく。
 そして──

「ネイファーーッッ!!」
 セネトは絶叫した。
 その視線の先には妹姫──風の巫女が祭壇の上、生贄として吊るされていた。
 ジャヌーラの術を施され、グエンカオスの魔力に貫かれて少女の生気は見る見る喪われてゆく。
「グエン! よくもネイファを……!」
 愛する妹の命の灯火が消え行くさまを、セネトはなす術もなく見せつけられた。
 端正な顔からは血の気が失せ、ただ瞳だけが憎悪に塗れてぎらぎら輝いている。
「殺してやる……殺してやるぞ、グエンカオーースッ!!!!」
 セネトは狂ったように髪を掻き毟り、呪詛の言葉を紡いだ。
「セネト様、落ち着いてください!」
 レシエは狂乱する甥の肩を掴み、激しく揺さぶった。
「今ここであなたが取り乱してどうするんです!」
「だけど、レシエ……!」
 甥の顔を覗き込み、レシエは息を飲んだ。
 少年の頬を一筋の雫が流れる。セネトは泣いていた。
「僕の……僕のせいなんだ……! ネイファを守れなかった。僕は……」

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