ファン小説(TearRingSaga)

3

 エストファーネが連行された後、ややあってオイゲンが言った。
「リュナン様……とても楽しそうでしたぞ。悪の侵略者ですな」
「悪役気分というのもなかなか愉快なものだね。レンツェンの奴が病みつきになるのもわかる気がする」
 くっくっと笑いながらリュナンが答えた。
「何よりも……あの子の言いようには釈然としない部分もあったからね……先に攻めてきたのは帝国の方だろう。だから……悪趣味かも知れないが、あの程度の脅しは許されると思う」
「思い込みの激しい年頃のようでしたしな。情理を尽くしても聞く耳は持たないでしょう」
 オイゲンが頷く。リュナンは肩をすくめて同意するしぐさを見せた。そのとき──
「だけど殊更に『人質』扱いなさったのは……あの子の命を助けるためだったのでしょう? 兵達の復讐心から守ってあげたのですよね?」
 主従の会話に割り込む声があった。
「エンテ、見ていたのか」
 声の主を見てリュナンが声をかける。
「途中からですけれど」
 少女は微笑しながらリュナンの傍らに寄り添った。
「あの子にひどい罰を加えたりはなさらないんでしょう?」
「まぁね。私の命を狙った暗殺未遂犯である以上、即座に処刑ということになってもやむを得ない状況ではあった」
「でも、助けてあげるのでょう?」
「なるべく、血は流したくないから。もうこれ以上は……ね」
「やっぱり……リュナン様はお優しいです……」
 嬉しそうに顔をほころばせながら、エンテはリュナンを見上げた。
 すると、リュナンが彼女の瞳を覗きこむように見つめてくる。
「エンテ……」
「は、はい……」
 公子の真剣な眼差しに、我知らず頬が熱くなるのを少女は感じた。

<Fin.>

[13-06-22]

HOME | ファン小説(ユトナ英雄戦記)