ファン小説(TearRingSaga)

悪夢

作)てんま

1

 リュナン公子率いる同盟軍は破竹の勢いで進撃していた。
 それは同時にカナンの敗走を意味する。
 清廉で有能な将軍たちの戦死が毎日のように報じられた。
 ケイモス……そしてバルバロッサ……
「もういや……もう、やめて……」
 私はうめいた。その知らせを耳にしたときは心臓が止まるかと思った。
 三日間、昼夜を問わず泣き暮らした。
 三日目の夜、夢を見た──

 私の傍らでバルじいが笑っていた。
「姫様。何を泣いておいでかな? じいが肩車をしてさしあげますから、もう泣くのはおやめなさい」
「もう……バルじい、私は子供じゃないのよ。肩車なんて歳じゃないんだから……」
 自分の声で目が覚めた。
 お日様のように笑っていたバルじいは夢だったと気がついた。
 ああ……いつまで胸の痛みは続くのだろう……
 こんな風に私が悲嘆に暮れてると、いつもバルじいが慰めてくれた。
 だけど、不器用に私の頭を撫でてくれるバルじいの、大きくて暖かな手はもう無い。
 バルじいは殺されたのだ。
 そう思うとまた涙が止まらなくなった。
 そして、あの男を憎んだ。
 誰かを殺したいほど憎めると、はじめて知った。

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