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リュナン公子率いる同盟軍は破竹の勢いで進撃していた。
それは同時にカナンの敗走を意味する。
清廉で有能な将軍たちの戦死が毎日のように報じられた。
ケイモス……そしてバルバロッサ……
「もういや……もう、やめて……」
私はうめいた。その知らせを耳にしたときは心臓が止まるかと思った。
三日間、昼夜を問わず泣き暮らした。
三日目の夜、夢を見た──
私の傍らでバルじいが笑っていた。
「姫様。何を泣いておいでかな? じいが肩車をしてさしあげますから、もう泣くのはおやめなさい」
「もう……バルじい、私は子供じゃないのよ。肩車なんて歳じゃないんだから……」
自分の声で目が覚めた。
お日様のように笑っていたバルじいは夢だったと気がついた。
ああ……いつまで胸の痛みは続くのだろう……
こんな風に私が悲嘆に暮れてると、いつもバルじいが慰めてくれた。
だけど、不器用に私の頭を撫でてくれるバルじいの、大きくて暖かな手はもう無い。
バルじいは殺されたのだ。
そう思うとまた涙が止まらなくなった。
そして、あの男を憎んだ。
誰かを殺したいほど憎めると、はじめて知った。