ファン小説(FE聖戦・親世代)

シレジアの恋

by てんま

あすは十四日ヴァレンタインさまよ、
門(かど)へ行こぞや、引明方に、
ぬしのお方になろずもの。
(シェークスピア作「ハムレット」坪内逍遙訳)

1

「フ、フュリー殿。少しお聞きしたいのだが」
 呼び止める声がした。アイラだ。
「何でしょう」
 振り向くと、頬をちょっぴり朱色に染めた女剣士が立っていた。フュリーは少し驚く。普段の彼女からは想像できない艶っぽい表情だった。
「その……先日レヴィン殿のおっしゃっていたことだが……」
 皆まで聞かずとも、フュリーにはアイラが何を尋ねているのかわかった。最近、何人もの女性から似たような質問を受けている。
 レヴィンが「シレジアの恋」と題する詩を歌ったことがあるのだ。

 それはノイマン半島に伝わる恋歌。
 風神フォルセティに祝福された聖なる一日。
 そこから始まった女性から男性に愛を告げる日の風習。
 レヴィンの巧みな話術と魅力的な内容に、その場にいた女性たちは心ときめかせた。
 吟遊詩人レヴィンの真骨頂といえた。

「ええ、もちろんですよ。シレジアの女の子たちも、この日には勇気を出せるの」
 フュリーは答えた。自分の台詞に何となく気恥ずかしくなって、言った後で微妙に視線を逸らす。
「そ、そうか」
 真剣な表情で聞いていたアイラは、フュリーの言葉が終わると、ほぅ、とため息をもらした。そのまま、ぼうっとした瞳で何事か考え込む。
「アイラさん……?」
 隙だらけの雰囲気で、フュリーが目の前で「おーい」と言いながら手を広げたり閉じたりしても、まるで気づかない。
 天馬騎士の少女はくすっと笑った。背伸びしてアイラの耳元に顔を近づける。
「あの、うまくいくと良いですね」
 優しくささやいた。女剣士はびくっと体を震わせる。
「う、う、うまくって、な、何がだ?」
 アイラは狼狽し、叫ぶように言った。首筋まで真っ赤だ。
 年上の女(ひと)のそのさまが可愛らしすぎて、フュリーは彼女をぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られた。

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