ファン小説(FE聖戦・親世代)

剣士志願

by てんま

1

「あれっ、あんた……」
 俺が剣を研いでいると女の声がした。
 聞き覚えの無い声だ。多分他の奴に呼びかけたのだろう。
 無視して剣をいじり続ける。
 すると、俺の体の前に影ができた。人が立ったのだ。
 顔を上げると見知らぬ女がニッと笑った。
「あんた、ホリンだろ。アグストリアの闘技場でチャンピオンの」
 金髪の美人だった。蓮っ葉な感じの喋り方だが何となく気品も感じられた。
「俺のファンか? 悪いがサインはお断りだ。気分を害したなら『お高くとまった奴』とでも思っていてくれ」
 素っ気無く返事をする。女にあまり興味はない。だが、その女はめげずに喋り続けた。
「闘技場ではあんたのおかげで結構稼がせて貰ったよ。シグルド公子の軍にいるってことは、あんたが引退したという噂は本当だったんだね」
「まあな」
 とだけ言う。俺の引退理由──何か大きな目的のために剣を使ってみたくなった──など別に教えてやる義理はない。青臭いと笑われそうだしな。
「寡黙な兄さんだねえ」
 ぶっきらぼうな俺の受け答えに、感心したように女が首を振った。
「それとも緊張しているのかい?」
 変なことを言う女だ。俺は目の前の人物に初めて興味を抱いた。
「なぜあんたの前で俺が緊張せねばならん」
 そう問いかけてみる。すると女は「ふふーん」と含み笑いした。何とも得意そうな表情だ。
「聞いて驚きな。私がオーガヒルのブリギッドだ」
 女──ブリギッドが胸を張った。キラキラと瞳を輝かせている。俺が腰を抜かすのを期待しているのか、もしかして。だが、
「はあ?」
 俺は首を捻った。
「知らんぞ。有名人なのか?」
 俺の返事にブリギッドは落胆の表情を見せた。
「私が井の中の蛙だったのか、それとも剣闘士が世間知らずなのか」
 ぶつぶつ呟いている。
「よく分からんが、あんたが自意識過剰ということではないのか?」
 俺が指摘すると、ブリギッドは頬を染め、
「そ、そうかも知れないね……」
 恥ずかしそうに同意した。
 素直な奴だな。俺は彼女に好感を抱いた。
 ところで……本当に『オーガヒルのブリギッド』とやらは自慢するくらいの有名人なのか?

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