3
「……クロードさま」
ふと気がつくと、ティルテュが真っ赤な顔で彼を見上げていた。
「あ、きつかったですか」
クロードは済まなそうに腕の力を緩めた。公女の体は抱いたままだったけれど。
「そ、そうじゃなくて」
ティルテュは首を振った。
「そろそろ支度をしないとダメじゃないかしら」
「支度?
何の?」
クロードが首をひねると、ティルテュは彼の顔をじっと見つめた。
「?」
やがて彼が本気で不思議がっていることを理解すると、
「今日、ミサのある日でしょう。『もし遅刻したら嫌だから、寝坊しそうなときは叩き起こしてください』って昨日おっしゃってたでしょう? だから、わたしが起こしにきたんじゃないですか」
「あ」
クロードはぽかんと口を開いた。
「やっぱり忘れてたのね……」
ティルテュが咎める目つきをする。
「面目無い」
クロードは頭を下げた。
「謝っている暇があるなら、さっさと神父の正装に着替えましょう!」
ティルテュが威張って言った。
(……何というか……一緒になったら尻に敷かれそうですね)
てきぱきとクロードの準備を手伝うティルテュの姿を横目で見ながら、クロードは考えた。
たとえば十年後も元気いっぱいの彼女に振り回されている自分を想像して苦笑してしまう。
しかし、すぐにその瞳は昏くなった。
いま思い描いた未来が永遠に訪れないことを、彼は知っていたからだ。
<Fin.>
以下、ゲーム会話のネタばれ。古いゲームですし今更という気はしますが、一応ご注意ください。 これはエーディンとの恋人会話ですが、クロードはバーハラに戻ったとき何が起こるか知っていたようですね。そんな彼の苦悩について描くことができれば良いなと思っています。