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ロファール王が大陸に軍を進めて半年。
列強諸国の中では唯一平穏だったウエルト王国にも、混乱の兆しが現れた。
ゾーア帝国との融和を求める勢力が蜂起し、王都を占拠したのだ。
反乱軍はリーザ王妃や文武の高官、大商人をはじめとする王都の人々を人質に、王国の諸侯や地方軍を従わせようと試みた。
しかし、厳戒体制の中、サーシャ王女が近衛騎士のケイトと共に王都脱出に成功する。
王都から所在を晦ました王女だが、ヴェルジェの地で健在をアピールした。
ヴェルジェには王家に忠誠を誓う人々や一旗組の者たちが次々に集い、今や城下は兵馬で溢れんばかりだ。
そして──王都奪回に向け、軍を進発する日が到来した。
「堂々たる軍勢だな……」
眼前に結集する万を超す将兵を眺めながら、ラフィンは思わず呟いた。
(これがバージェ奪回の軍だったら……)
と、少しだけ夢想する。勿論、今は無理である。が、いつかはその夢を叶えるつもりだ。
(そのためにも今回の作戦は成功させねば……!)
ラフィンはこの内乱を、彼自身のウエルト王国での発言権を強める好機と捉えていた。
「兄上、何かおっしゃいました?」
独り言を聞きつけたらしく、義妹のエステルが傍らに寄ってきた。
「うむ、俺がたまたま騎士団を率いて巡察に出向く予定だったことは、まさに不幸中の幸いだった、と思ってな」
そんなことを言ってみる。これも本心の一つだ。既に準備が整っていたからこそ、王女からの救援要請に早急に応じることができたのだ。
すると、エステルは意味深な笑顔を見せた。
「『たまたま』ですか、兄上?」
義妹の声に含まれた感情の意味を理解しかねて、ラフィンは一瞬沈黙する。エステルは続けた。
「何か胸騒ぎがしたからだったりして。それとも運命の予兆と言うべきかしら」
からかうような口調なのに、なぜか息苦しさを感じて、ラフィンは義妹の言葉を遮った。
「……何が言いたい、エステル」
「別に……」
ちろんと流し目をくれると、エステルはそのまま黙ってしまった。
「あのな……」
その態度に理不尽な居心地の悪さを感じて、ラフィンは何か言いかけた。
刹那、将兵の間から歓呼の声が沸き起こった。
サーシャ王女が姿を現したからだ。“ウエルト解放軍”の盟主である。
サーシャが軽く手を上げると、人々は不意にしんと静まり返った。
息を殺し期待に胸を高鳴らせて、王女の言葉を待つ。
歴戦の軍士にそうさせるだけの強烈なカリスマを、サーシャは生来備えていた。
「みなさん、この数ヶ月、よく耐えてくれました――」
そんな風にサーシャが語りはじめる。よく通る澄んだ声であり、意味を解せぬ異国の者が耳にしたなら、あるいは美しい歌声と思ったかも知れない。
(身近に接すると、天真爛漫で可愛らしいだけの、ごく普通の少女なのだが)
そんな感想をラフィンはこっそり持った。彼自身、将兵を前に言葉を発するサーシャに対し、気圧されつつも惹き込まれる何かを感じていた。