イスラ海賊やトーラス山賊を討伐しつつ、シーライオンの一行はウエルト王国を進撃した。
そしてかれらは、いよいよウエルト大橋まで辿(たど)り着いたのだが…
「ねえ、シゲン。これからの予定なんだけど……ウエルト王宮へ行くんだよね」
とゼノが訊いた。シゲンは彼にむかって頷きながら、
「ふっ……オレたちが行ったんじゃ、海賊集団と勘違いされるかも知れんがな」
と肩をすくめる。
「あ、それは言えてるかも。何しろシゲンとかガロなんか、それ以外に見えないもんねっ」
ユニがにやにやしながら言った。その後ろではカトリがくすくす笑っている。
「お前らなぁ」
シゲンが何か言い返そうとしたとき、ふいに彼の貌(かお)が真剣なものとなった。
「どうしたの、シゲン?」
怪訝そうに問うゼノの口をシゲンは手で塞ぐ。そして、
「しっ。みんな隠れろ」
と言うなり、手近な藪の中に飛び込んだ。他の面々も思わずつられてシゲンに続いた。
「な、何なの?」
「や〜ん、蚊に噛まれた」
「ユニ、あんまりくっつくなっ」
がさごそ藪の中で、好き勝手に騒ぐシーライオンの面々。シゲンは眉間に皺を寄せながら、
「お前ら、ちっとは静かにしなっ。あれを見るんだ」
そう言って、顎の先で橋の上を指し示す。
「あ、ホームズとサーシャ様じゃん。先行していたのが戻ってきたんだね」とゼノ。
「王宮の守備兵と話がついたのかな」とカトリ。
「あれー? 立ち止まって、何か話し込んでる……どうしたんだろ」とユニ。
そのセリフを聞いたシゲンが「ふっ」と鼻で笑った。
「お子様め」
「何よ、シゲンにはわかるっていうの?」
ぷっと頬を膨らませてユニが問う。シゲンは頷いた。
「ったり前だろ。かつては何人ものカップル未満の奴らをくっつけて、『ゾーアのキューピットさん』と称(たた)えられたオレだぜ」
「カッコ悪い異名だね」とゼノがつっこむ。
「黙れ、ゼノ。お前にはもう恋の呪文は教えてやらん」
「『恋の呪文』……」
シゲンのセリフにゼノは眼をぱちくりする。
「そんなことより。あの二人、何をやってるとシゲンは思うの?」
ユニが訊いた。シゲンはにやりと口元を歪めると、
「四六時中一緒のうざい仲間どもから離れて、若い男女が二人きり。この状況で何が考えられるというのかね、ふっふっふっ」
そう笑うシゲンに向かって、ユニとカトリが、
「シゲン、オヤジくさーいっ」
「『何が』ってナニ?」
と口々に言った。
「ちっ、これだからガキどもは……」
シゲンは軽く舌打ちすると、
「『ホームズ……やっと二人きりになれたのね』」
いきなり裏声で話し出した。
「はぁ?」
シーライオンの皆はきょとんとした表情だ。それに構わずシゲンは、
「『ふん……サーシャはリュナンが好きだったんじゃないのか?』
突っ放すようにホームズが言う。その冷たい瞳に気づいたサーシャ王女は、
『そんなこと言わないで。私の気持ち、わかってるくせに……』
とても哀しい声で言うと、顔を伏せてしまった。」
声音や表情をコロコロ変化さえ、熱弁をふるう。
「な……ナニしてるのさ、シゲン。壊れちゃったの?」
おろおろとゼノが言ったが、そのセリフを遮るように、
「何て奴なの、ホームズ! 女の子を泣かせるなんてっ!」
と義憤に駆られてユニが叫ぶ。
「ふっ……ユニはお子様だからわからんかも知れないが、男は好きな子をつい苛めたくなるものなのさ」
シゲンが薄く笑った。そして、橋の上でまだ何やら話し合ってるホームズとサーシャを眺めながら、再びアテレコをはじめる。
「『すっ、すまねぇ。つい調子に乗ってしまった』
大粒の涙を溜めた王女の目じりを見て、ホームズがうろたえる。
『……そうだな。リュナンは尊敬する兄貴みたいなもんだって、お前いつも言ってるもんな……』
『うん。でもね、ほんとはリュナン様って少し苦手かな。真面目で誠実な方なんだけど……いっしょにいると、ちょっぴり息が詰まりそうになるの……』
そのセリフにホームズが苦笑した。時折彼自身が親友に抱く思いとよく似ていたからだ。
『じゃあ、オレは砕けていて不真面目でちゃらんぽらんなヤツに見えるってか? 何しろオレとリュナンは正反対の性格だし』
ホームズの軽口に王女はくすっと笑う。
『ううん。わたしはそうは思わない。強くて優しくて楽しい……それがわたしの好きなホームズだもん』
『ふっ。こそばゆいことを言ってくれるぜ』」
ここでまた、ユニが口を挟んだ。
「おーおー、ホームズのヤツ照れちゃって。愛(う)い奴よのぉ」
「ユニ……言ってることも表情も、オジサンみたいだよ」
「えーっ、ゼノ、ひどーい」
ぽかぽかゼノを叩くユニ。
(こいつら……)と思いながら、シゲンは注意を促した。
「おい、見ろよ。ホームズがペンダントを取り出したぜ」
「あのヒスイのヤツ?」とゼノ。
「あ、ズルイ。とっても大事なものだからって、あたしには見せてくれなかったよ!」とユニ。
カトリは先刻から黙ったままだ。ときおり、ぴくっぴくっと頬が痙攣している。
「シゲン先生っ、これはいったいどういう状況でしょう!?」
眼を爛々と輝かせながら、ユニが訊いた。
「ううむ……こいつは……」
シゲンが首をひねった。一瞬、ちらりとカトリを見やったが、意を決したように、
「『サーシャ。これ、オレの気持ちだ。受け取って欲しい』
そう言うと、ホームズはペンダントを外してサーシャ王女に手渡した。
『え……でも、これっていつもホームズが身につけている……とても大切なものじゃないの?』
ホームズはポリポリ頬を掻きながら、
『だからお前に貰って欲しいのさ。お前がそいつを持っていてくれるかぎり、オレたちはずっと一緒だ。少なくとも、オレはそう思っていられるんだ』
照れくさそうに言うホームズに、王女は優しく微笑んだ。
『うん、わかった。ホームズ、うれしい……』」
シゲンが話し終えると、
「……はぁ……ホームズ、やるじゃん」
うっとりとユニが呟く。
「ホームズって意外にロマンチストなんだね」
ゼノが複雑な表情で言う。
そして。
そしてカトリは……
シゲンは彼女の方をまともに見ることができなかった。
とても怖かった。
(すまん、ホームズ。こいつら冗談が通じん)
シゲンは盟友に心の中で平謝りした。
さて。
数刻後、ホームズの部屋。
「ホームズ……」
不穏な雰囲気を全身に漲(みなぎ)らせて、カトリが口を開いた。
実に剣呑な被保護者のようすにたじろぎながら、ホームズが、
「な、何だよ、カトリ」
「見ていたのよ……この女好きっ!」
「何のことだ」
「知らばっくれないで。サーシャ様に手を出したって、もう知ってるんだから」
「はぁ?」
「ホームズのバカっ!!」
そう言うなり、少女は手にした杖をブンブン振る。それを見たホームズは真っ青な顔で、
「ちょっと待て。いえっ、待ってください、カトリさんっ。ゾンビの召還はや〜め〜て〜っ!!」
<Fin.>
1回目の編成でサーシャをホームズ軍に入れて、ウエルト大橋まで行けばいいです。
ペンダントとかヒスイとか、このお話は真実含有率けっこう高いです(笑)。