ファン小説(FE聖戦・親世代)

風の剣

by てんま

 シグルド軍はオーガヒルに進出した。
 この島にはブラギの塔と呼ばれるブラギ教団の遺跡がある。
 吟遊詩人として放浪していた当時の魂が疼き、レヴィンは塔へと赴いた。


 途中、シグルドがブリギッドと会話している光景に出くわした。
 シグルドが生真面目な顔で海賊の元女頭目に言った。
「キミが欲しい」
 『だったら卵を食べれば良いのに』
 ブリギッドがそんな風に切り返すかと思ったが、頬を染めて俯いてしまった。
(純情なお姐ちゃんだ)
 いつかネタにしようと思いつつ、レヴィンはその場を後にした。


 次いで盗賊のデューと出会った。
 彼は見慣れぬ剣を腰に吊っていた。
 握り柄に刻まれた紋章から判断すれば“風の剣”だ。とても希少な魔法剣。
「それ、どうしたんだ」
 尋ねてみると、ブラギの塔で拾ったのだという。
「おいら、普段から恵まれないヒトたちに施しをしているからね。日ごろの行ないが良いからブラギの神様がご褒美にくれたんだ」
 誰に金銭を支援しているのかも訊こうと思ったが、どうせあいつとあいつだろうと見当がついたので、レヴィンはそれ以上追求しなかった。それよりもブラギの塔で起きた奇現象に関心をもった。
(俺も何か貰えるかも知れん)
 特に善行を積んだ覚えは無いが、自分は少なくとも盗賊より真人間だ。
(だったら俺にも魔法書か何か寄越さないと不公平だ)
 根拠不明の自信たっぷりにレヴィンはそう決め付けた。


 しかし、よく考えてみると、エルウィンド持ちの彼にとって、これより上級書といえばトルネードかフォルセティしかない。探し回ってウィンドしか見つからなければ全くの徒労である。
(エルウィンド以下ならブラギ神はダメ神)
 罰あたりなことを考えながら、レヴィンはブラギの塔に向かった。


 浜辺をしばらく歩くと塔が見えてきた。
 壁面は崩れ落ち、たいそう寂れた感じだ。とても由緒ある建造物とは思えない。
 ブラギ教団は信者からお布施を取るだけ取って何をしているのかとレヴィンは憤慨した。
 とはいえ、風神フォルセティの末裔である彼はブラギ信者というわけでもなかった。


「拝観料は50Gになります」
 入り口で声をかけられた。にこやかな表情でブラギ僧が立っていた。入場料を取るらしい。
(商魂だけは逞しいな)
 レヴィンは心の中で毒づいたが、宗教ともめると面倒なので、そのまま黙って財布の紐を解いた。


 中に入る。外観同様、荒れ放題だ。
(拝観料とやらは何に使ってるんだろう)
 そんなことを思いつつ、レヴィンはめぼしそうな場所を捜索した。
 幾つか宝箱を見つけたが、鍵開けの才能が無いのであきらめた。もっとも、その宝箱は教団の私有財産と思われる。勝手に持ち出したら窃盗罪だ。彼は「ゆうしゃ」ではないので免罪されるはずもない。
「おおレヴィン、しんでしまうとはなにごとだ」
 意味不明のことを呟きながら、彼は「ゆうしゃ」とは何かについてしばし思いを巡らせた。


「ん?」
 何か床に落ちていた。本のようだ。
 まさかと思いつつ、レヴィンは駆け寄った。急いで表紙を確認する。

『春画満載-無修整-』

 表紙にはそれだけ記してあった。他には何も書いてない。魔法書ですらないようだ。しかしレヴィンは満足心でいっぱいになった。自然と口元がほころんだ。
(神様ありがとう)
 ほんの少し前不埒な宣言をしたことも忘れ、レヴィンはブラギ神に感謝した。ワクワクしながらページを開く。

『ハズレだ。あんたが何を期待したかわかるけど、人生そんなに甘くないよ(笑)。』

 一頁めにそう書いてあった。レヴィンは少し鬱になった。


 その夜、皆で博打をした。レヴィンは大いに勝った。もう払うものがないと泣きついてきたので、デューからは例の剣を巻き上げた。
「禍福はあざなえる縄のごとし、か……悪いな、デュー」
「そう思うんなら返しておくれよ」
「嫌なこった」
 手に入れた時はほくほくした気分になったけれど、セイジの自分に剣は無意味だと気づいてレヴィンは落胆した。


 風の剣は、気になるあの娘に贈ることにした。
 女の子への贈り物に剣というのは正直どうかとも思ったが、意外にも喜んでくれた。
 少女の笑顔を見たレヴィンは胸が少し痛み、今度はちゃんとしたプレゼントを考えようと反省した。

<Fin.>

[14-08-20]

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