ファン小説(FE聖戦・親世代)

星降る夜に

by てんま

 星の神話。
 天界で離れ離れに暮らす青年神と姫神。
 その二人が一年に一度だけ逢瀬をもつ日。逢うことのできる日。


 そんなおとぎばなしを 彼が教えてくれたのは、ちょうど一年前のこの日。
 アグスティ城の中庭で、星空を見上げながらのことだった。


 一年前──アグスティ城

 今日、シルベール城から兄上がお越しになった。
 グランベルのアグストリア占領政策に意見をなさりに来たらしい。
 でも、私にはそれはここに来る口実としか思えなかった。
 だってその晩、さっそくシグルド様たちと宴会を始められたんですもの。
 軍のおもだった人たちをみんな集めて無礼講で。
 女装して歌い出す人やおしりで宙に文字を書く人……色々な人が様々な趣向を凝らした芸を披露して、けっこう面白かったわ。
 だけど、しばらくすると「こどもはもう寝る時間」という名目でその場を追い出されてしまった。まだお酒を飲めない私はかれらの感覚では「こども」らしい。
 抗議しようと兄上を見ると、私の表情から内心を察知されたようで、少しムッとした様子で私のことをご覧になった。
 確かにあまり品のよくない宴ですもの。兄上は保守的な方だから、私がこの場にとどまりたいと駄々をこねたなら覿面てきめんに不機嫌になるに決まっているわ。
 みんなで楽しんでるところに兄妹喧嘩で水をさすわけにもいかない。
(こんなことを考えてしまう私って実は結構オトナかもしれないわね……少なくとも頑固極まりない何処ぞの国王陛下よりよっぽど柔軟性がございましてよ)
 心の中で兄上に向かって毒づきながら……それでも仕方がないから中庭に出て夜空を眺めることにした。
 けれど、宴場から時おり聞こえてくる歓声や笑声を耳にすると、私一人だけがすっかり疎外されてしまったような気分で……鼻の奥がちょっぴりつんとなってしまった。
 泣いてしまおうかしら。どうせここには誰もいない……私一人だけだもの。
 そう思ったときだった。
「ラケシス王女」
 背後からそっと……遠慮がちな声をかけられた。それはとても耳に心地よい響きをもたらす声で。
「えっ」
 予想もしなかったできごとに私はドキッと胸を高鳴らせた。
 けれど、彼の方がもっとビックリしたみたいだった。
 振り向きざま……彼の姿を認めた私の眼からぽろっと涙がひとしずくこぼれたから……
 でもね。その後、彼はすぐにこう言ったの。
「ラケシス様は泣き上戸だったのですね」


「私も宴から追い出された口でして」
 と、彼は言った。
「『お子様はさっさと寝るように』とキュアン様に言われたのです」
 照れくさそうに頬を掻きながら、彼──騎士フィンは説明した。
 でも、これはウソ。私にはわかる。だって、普段から彼はキュアン様の晩酌のお相手をしているもの。
(最近のフィンはあの人キュアンの飲酒の防波堤になってくれない。正式に騎士として叙任されて以来、大人になったつもりなのか、いつも一緒に飲むようになったの。以前は私と一緒にキュアンの飲みすぎをたしなめていたのに……私の味方だったあの子はどこへ行っちゃったの?)
 とエスリンが私に愚痴をこぼすから知っているわ。
 ……でも……そうだとしたら……どうして酒席を外してわざわざ私の所へ声をかけにきたのかしら。
 もしかして……私に気があったりして。
 ……というのはあくまで空想。
 フィン殿が私を好きだなんて……ちょっと図々しいゾ、私。
 彼は優しいから……中庭でぽつんと一人たたずむ女の子を見かけて可哀想に思っただけなの。それくらいわかっているの。
 ……でも、少しくらい夢をみてもいいでしょう?


 そして天の川を見上げながら彼と私は夜中までお喋りをしたのでした。



 現在──セイレーン城

 あれから一年。
 ふたりの距離はあの時よりも近く、そして遠い。
 彼はキュアン様とレンスターに戻り、私はシグルド軍に帯同したままシレジアにとどまっていた。


 心は結ばれている。
 そう信じていても……
 でも、シレジアとレンスターでは遠すぎるわ……フィン。
 あなたも異国でこの星空を見上げているの?
 そして、星の神話を思っているのかしら。

<Fin.>

[13-07-09]

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